トンカチ 「母の日」と聞いて何を思い出しますか?

リサ スズランを思い浮かべます。丁度、母の日の頃、スズランが咲くの。
私が2歳の時に母が亡くなって、6歳ぐらいの時に父が再婚して、私に新しい母ができたの。
母の日にはお祝いをして、私はいつも、森にスズランを摘みに行ったの。

トンカチ あなた自身が母になってみて、母という存在に対するイメージはどんなふうに変わりましたか。

リサ 彼女は私に自然に接する事が出来なかった。どちらかというと身勝手な人だったと思うわ。

だから以前の私は子供を産みたいとは全く思わなかった。
私とグンナルは結婚して随分経っても「私達は子供を作らない」とずっと言っていたわ。
その理由の一つには、自分が子供時代に経験したことと、もしも子供を残して自分が早く死んでしまったら、という大きな不安があったの。
ある意味、当時はとても悲観的な時代で、原爆投下のこともあって、このまま地獄のような世界になるかもしれないと悲観的に思い込んでいたの。

リサ 私達は結婚してから8年間子供がいませんでした。その間に私達にも危機が訪れました。
まぁ、結婚していれば意見の食い違いもあるし、そんな時期は誰にでもあるけれど、その時には二人で沢山話し合って、そして、子供を作ろうと決めたの。そしたらすぐに子供を授かったの!まるでオーダーでもしたかのように。 可笑しいでしょ?(笑)
ヨハンナが生まれて、私は30歳くらいだったから、母になるには十分な年齢でした。
それは私にとって信じられないほど素晴らしい体験だったわ。子供ができる度にちゃんと健康な子が生まれてくるかどうか、私はどこか悲観的で、と同時に楽観的でもあったけど、どちらかというと悲観的な気持ちでしたね。
でも良い子供達を持って本当に素晴らしいと思っているわ。

トンカチ きっとそうだと思います。

リサ 自分ではうまく成功したと思ってるわ。(笑)

 

 

ー まずは大きな責任であるという事。
  そしてお互いをリスペクトし合うこと。

 

トンカチ 「母への愛」「父への愛」「子どもたちへの愛」、それはどんな「愛」でしょうか。
あなたのイメージを教えて下さい。

リサ そうね、はじめに感じる「愛」。
まぁ「愛」全てにおいてなのでしょうけれども、メンタル的に感じるものだと思います。
しかし私にとっての「愛」とは、まずは大きな責任であるという事。
そしてお互いをリスペクトし合うこと。
お互いの仕事やお互いの望みなど片一方だけが決めるのではなく、相互にリスペクトし合う事が重要だと思います。
まぁ、私からはそんなにアドバイスをすることはありませんが、ふと頭に浮かんだ私なりの考えです。

多くの人からよく「あなた達は結婚生活が長いね」と言われます。私達は結婚してもうすぐ70年です。ですから周りからはどうやったらそんなに長い間一緒にいれるのか?と聞かれます。
そんな時に考えるのですが、それはやはりお互いへのリスペクトということよね。
グンナルはいつも私の希望や仕事に対してリスペクトしてくれました。そして私も彼に対して、芸術家として、一人の人間として、とてもリスペクトしてきました。
彼は私より賢いですし、私よりずっと才能があります。ですから、いつも彼を上に見てきました。

トンカチ リスペクトですね!

リサ そうリスペクトです。

トンカチ 「作品づくりへの愛」はどんな愛でしょうか。

リサ そうね、私が作品を作る時は殆ど感情のままに作っているので、あまり、というか全く考えては作っていません。アイディアよりも感情の方が大きいわけです。
いつの間にか勝手に作品を作っているので、いつも出来上がった時は「あらまぁ!こんなのができたわ!」と自分でも驚いています。

出来上がった作品は、いつも出来が悪いと思うのですが、20年、30年、40年経った後に
「これ良いじゃない!とっても良いわ!」とよく言われます。でも自分ではその良さに気がつくことができず、ただ「私は良いとは思わないわ。それは失敗作だわ。」と言ってきたの。
でも一度失敗した作品は、またチャレンジしたくなるわね。ギブアップはしたくありませんね。(笑)

 

ー 私が今こうやって手で仕事をしているのは、
  母から大きな影響を受けていると
  自分でもよく分かっています。

 

トンカチ あなたは、今、どんなふうに母について感じていますか。

リサ そこに母の写真が飾ってるでしょ。私はいつもこの写真に向かって「おはようママ!」とか
「おやすみなさいママ!」と挨拶をするの。子供の頃の記憶が残りはじめた多分3歳のころだったか、私は毎晩のように泣きながら天国にいる母に向かって話しかけていました。
いつか会おうねとか言いながら。それは今でもよく覚えています。その時はいつも大好きな人形を抱きしめながら、誰にも聞こえないように毎晩話をしていました。

私の父は本当に素晴らしい人でした。彼は働き者で、いつも全力で仕事をしていました。
文化と文学に興味があって、いつも沢山の本を買ったり、町のアンティークショップで素敵な物を買ってきたりしていたわ。

彼はスモーランド地方の貧しい農家の息子で、長男だけが農園を引き継ぐので、他の子達は自分で生きていくしかなかったの。彼は学校に行けるものなら建築家か弁護士になりたかったの。
彼は地域の陪審員に選ばれて、毎月、話し合いに参加していて、その時に裁判官と友達になったこともあって、弁護士に憧れたんだと思います。

トンカチ あなたと母との物語が映画になったとして、あなたにとって、もっとも印象的なシーンは、どんなシーンになるでしょうか。

リサ そうねぇ。母の事を知ってる人に会う機会があって、母には沢山の兄妹がいて、とても仲が良かったそうです。彼女が言ってたのは、母は手がとても器用な人だったそうで、陶芸や縫い物が上手たったそうです。あとは字がとても綺麗だったらしいけど、私は彼女が書いた手紙一つ持っていません。でも、皆がとても上手たっだと言っていたわ。

彼女は手に才能を持ってたんだと思います。若くして結婚したので、他の仕事はしたことはなかったのね。彼女が本当は何をしたかったのか、私にはわかりません。彼女はとても心の温かい優しい人だったと思います。彼女の兄妹達もみんな宗教的で、温かく優しい人達でした。

トンカチ という事はお母さんとあなたの働く手についての映画を作りたいのですか?

リサ そうね。私が今こうやって手で仕事をしているのは、母から大きな影響を受けていると自分でもよく分かっています。母が残したいくつかの刺繍のタペストリーやテーブルクロスなどがあるからです。

 

 

ー あぁ、よく考えてみると、
  「母の像」は沢山作ってるわね。

 

トンカチ 母を作品にしたことはありますか。

リサ それはないと思いますが、、、あぁ、よく考えてみると「母の像」は沢山作ってるわね。
テーマは母と子供。今まで話をしてきて、そうね、あまり考えたこともなかったわ。

あの作品を作った時に優しい気持ちを噛みしめたのをよく覚えています。
もしかしたら心のどこかで母を恋しく思う気持ちが「母の像」などに向かったのかもしれませんね。
私自身もそれは考えたことがなかったわ。気持ちを形で表す、私なりの感情表現だったのかもしれません。

トンカチこれから母になる人へ、「私がアドバイスするならこれだけ」というメッセージを。

リサ はははは!ちょっとこれは面白いわね。
だって夏に息子のマティアスとフレデリカ(マティアスの妻)に子供が生まれるからね。
彼女は子供ができるのを待ち望んでいたの。
彼女は今40歳でマティアスはもうすぐ60歳!(笑) 
彼らに何のアドバイスもないわ。私のアドバイスなんてなくても立派な親になれるから!

 

 

インタビューを終えて


リサは、母が残した数少ない刺繍や縫い物、そして字が上手だったという話から、母は手に才能があった人だ、と結論している。リサは、そう考えることで、残されたほんのわずかな情報しかないところから、母のイメージを自分に引き寄せて作り上げている。手に才能があること、それは確かにリサが受け継いだものだからだ。だから、それは絶対にそうでなければならないのだ。それは「繋がり」だから。

母がそこにいなかったということ、母の記憶がなかったということが、リサの人生に絶大な影響を与えたことは想像に難くない。その不在が、リサを作品づくりに没頭させていく。まるで、小さいな頃、人形に向かって誰にも聞こえないように天国の母に話しかけていたように、彼女は自分の心の奥にある湖みたいな領域に話しかけながら、そこから、あのライオンや猫を抱き上げてきたのだ。私達にはそれが直感的にわかるから、彼女の作品に、特別な優しさと特別な寂しさを感じて、まるで自分の心から出てきた形のように、それらを愛おしむのだ。

今でこそ、リサは「不幸な幼少期」だったと言うが、その頃の彼女は絶対にそんなことは言えなかった。母がいない彼女は、だからこそ自分が母となって、数々の作品を生んでいける陶芸という仕事に夢中になった。彼女が、食器などより動物や人などの生命体を作ることを好んできたことも、その現れかもしれない。最後に1つしか作れないとしたら何を作るかと聞かれて、リサは「それは人ね」と即答している。

「子供に対して際限のない愛を与えてくれるもの」それが母親とも言える。そして子どもたちは、各々がそれらの小さなエピソードを持っていたり、言葉にならない感触を覚えている。しかしリサにはその体験も感触もない。リサは空想の母を想い、その母を心からリスペクトしてきた。リサの愛は「想う愛」だ。だからリサは、愛とはリスペクトだ、と言う。「想う愛」は、「優しさの感触」とは違うのだ。「想う」というリスペクトが繋がりを生むのだ。

インタビューというものは過去の話が中心になりがちだ。しかし「過去は過去」、本当は今にしか意味がないことを私達は知っている。リサはいつも、この先を空想する。先を空想しないで過去を思っていたのでは作品は作れない。人形に話しかけていた女の子は、生まれてくる作品という未来に話しかけることを日常にして、アーチストになった。彼女はこの先にしか興味がないのだ。偶然だけど、このインタビューは、夏に子供ができる長男夫妻の近未来の話で終わる。

リサのインタビューを終えて、そんなことを思った。

Lisa larson