マイキー誕生秘話

 

S:デザイナー、K:トンカチ代表、M:新入社員(インタビュアー)

(マイキーバースデーを目前に控えたとある金曜日)

 

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マイキーの生い立ち

 

Q1:マイキーはベイビーナンバーブックの「1」のページに登場する猫ですが、どのような経緯でこの子をスターにすることが決まったのですか?

 

K:

一番はじめ、なんでしたっけ。リサのスケッチをみてですかね。

 

S:

そうだね。最初に猫のキーホルダーを作って。次に絵本を作ろうっていう話になって、マイキーのスケッチがきたんだよね。

 

K:

キーホルダーのあとにスケッチか。

S:

で、数を数えられる絵本にしようってなって、それで作ったのが『BABY NUMBER BOOK』。いろんな動物の絵がリサから届いて、その動物の中にマイキーがいて。初めは、ヨハンナが表紙に全部の動物を集合させていたの。でも、縞々の猫がすごくキャッチーで、この子を表紙にしよう!ってなって、この子だけを引っ張り出して、そしたらすごく人気になったんだよね。

 

K:

うんうん。

 

S:

で、はじめは…Kさんがいつも言う、あれ。

 

K:

うん)。初めは営業行くと「なにこの猫?」みたいな。「怖いから子供が泣いちゃうよ」って言われました。

 

S:

絶対売れないよってね。

 

K:

「こんな怖い猫、売れませんよ」って。

M:

『BABY NUMBER BOOK』よりも、キーホルダーのほうが先だったんですね。

 

K:

そうそう。そのキーホルダーがすごく売れて。1200円するんですけど、大人の人が買ってくれて。あれって陶器の感じを残すように、少し重かったり、質感も陶器っぽく作ってるんですね。それが、人気が出たことで、そこから「リサ・ラーソンという人が作ってて、実は陶芸家なんだ」っていう流れでリサを知ってくれる人が増えたんです。

M:

ではもともと陶器のマイキーがいたってことなんですか?

 

K:

マイキーの原型みたいな猫がいて。stora zoo っていうビンテージの猫が、マイキーに似てるから原型とされていて。

 

S:

そうだね。形が似ている。尻尾とか。もともと、すごく可愛い陶器の動物がいっぱいいるのに、そういうものは北欧のハイな人たちしか知らない場所(=お店)に置いてあったの。それで、自分たちは「もっと知ってもらいたいね」ってなって。当時、リサのさんが陶器で遊んでるところを見て、そこから「抱きしめられるリサ・ラーソン」というコンセプトでぬいぐるみを作ったの。陶器じゃ硬くて一緒に寝れないから、ふわふわにしよう!というね。

S:

その次の企画で、陶器はいつも家に置いてあるだけになっちゃうから、「持ち運べるリサ・ラーソン」にしよう、となってね。それでキーホルダーの企画が立ち上がったの。リサに「キーホルダーが作りたいんだ」と伝えたら、リサは「やろう!」って、すごいたくさん模型を作ってくれて。結構いろんな動物がいて、象とかキリンとかマイキーの猫とか。それらのスケッチが『BABY NUMBER BOOK』になったって感じなの。

 

M:

なるほど。

 

K:

『BABY NUMBER BOOK』は、リサがスケッチを描いて、ヨハンナがグラフィックに起こして、色をつけた、初めての母と娘の共作です。

ファブリック工場で名前をもらった、マイキー。

 

Q2:ナンバーブック発行当初、マイキーには名前がなかったそうですが、いつ、誰によって命名されたのでしょう?

 

K:

ヨハンナに、名前を付けたいって話をして、ヨハンナが知人の名前からとって、付けてくれました。リサの猫たちにはみんな「M」がつくんです。ミア、マヤ、ミカ、マイとか。全部「M」がつくから、それもあってマイキーという名前にしたのかな。

 

S:

あそこで決まったよね、布の工場。

 

K:

そうだっけ?

 

S:

スウェーデンのファブリック工場に行って、マイキーの布を作ってるときに名前の話になって。それで、つけてくれたの。

 

M:

そうなんですね。

マイキーには、なにか、ある…!

 

Q3:媚びていない猫のどういうところに愛着が湧いて、スターにしようと思ったのですか?

 

K:

ちょっと顔が人間っぽいんですよね。マイキーって人の表情みたいにみえることがある。

 

S:

そうそう。他の動物を見ても多分、感情があるようにはあまり見えない。ただの絵っぽいというか。でもマイキーは、なにか、ある。

 

M:

なにかある…!

 

S:

それから、あれがもし茶色い縞だったら、猫にありがちな色だけど、赤と白の縞々ってところも特徴的。そしてあの顔だし。

Q4:日本での反応はどのようなものだと予想していましたか?

 

K:

自分たちはあの猫を表紙に持ってきたときに、本屋さんに並んだ時にすごいインパクトでるんじゃないかなと思っていて。表紙を開くと、裏と表で体が繋がっているようなデザインなんです。やっぱり買ってくれた人とか本屋さんには「ぱっとみたときに目が合うから、なんだろうこの本?と思う」って言われて。「なんか気になる」という感じ。顔がちょっと強いですからね。

 

S:

うんうん。ちょっと意地悪な顔。それで、こちらを見てるから、見返しちゃう、みたいな。

 

K:

こんなふうに、インパクトのある顔だから、「なんかこの猫みたことある!」みたいな人がそこから増えたんですよ。「マイキー」とか「リサ」とかは知らなくても。

 

 

Q5:マイキーの初めてのグッズは何でしたか?

 

S:

先程話したキーホルダーが最初かな?手ぬぐいもかなり初期のグッズ。

 

K:

そうそう。手ぬぐいは、2011年の震災の時に、リサがすごく心配して「日本のために何かしたい」と言ってくれたのがきっかけで作りました。リサはもともと日本のことが大好きだったんです。それまではスウェーデンや中国での生産しかしていなかったけど、「日本の産地でなにか一緒に作ろう」という企画がそこから生まれて、「ジャパンシリーズ」になりました。自分たちがすぐにできる範囲から始めて、てぬぐいが出来ました。

「マイキーが、いる!」

 

Q6:マイキーの人気に火がついたと思われるターニングポイントはありますか?

 

S・K:

やっぱり、松屋だよね。

 

K:

2014年の9月に初めて『リサ・ラーソン展』を松屋銀座で開催したんですけど、10時のオープンにお客さんがわーーって入ってきて。私たちはミュージアムショップのほうを担当してたんですけど、そこで品出ししてたら「マイキーがいる!」ってちっちゃい子が叫んでいるのが聞こえて。「え!?」みたいな。笑 「マイキーって知ってるんだ!?」って超びっくりしました。それまでは「なんかこの猫みたことある」くらいだったのに、それがいきなり「マイキーいる!!」みたいな。びっくりしましたね。

 

S:

たったったって走ってきてね。マイキーがキティみたいな存在に。

 

K:

こんな小さい子がマイキーを知ってるんだ、と感動しました。

Q7:マイキーに様々な柄ができたのは、何がきっかけでしたか?

 

K:

2018年の猫の日かな。その頃、日本で猫ブームというか、猫が人気になっていた時期でした。もちろん今もそうですけど。そのときに、マイキーの友達を作ろうってなって。世界中の猫たちが猫の日のお祝いに集まったというコンセプトになりました。実際の猫の柄を落とし込んでいるんですね。本当にいるハチワレとかぶちとか。様々な種類の猫種から作られています。Sさんが初めにデザインして、リサが監修してくれて、「面白いね」って言ってくれて。

 

S:

そうそう。猫っていろんな柄がいるから、実在する猫の柄をやってみようってなって。友達なのか、マイキーなのか。カメレオンみたいに変身しているのか…。

 

M:

初めての柄違いマイキーがどの子か、覚えていますか?

 

S:

キャリコ(三毛猫は英語でcalico cat)がはじめだったよね。なんでだっけ?

 

K:

映画「先生と迷い猫」とのコラボグッズで作ったからですか?

 

S:

つくったけど、それより先にいたんだっけ?う〜ん。

Q8:新たなマイキーはどのように生まれるのでしょうか?

 

S:

猫の企画とかを色々やってみて、いっぱい(猫の)写真が送られてくるけど、ぶちの位置とか色とか、1匹として同じ猫はいないんだよね。猫ってすごくたくさん種類があるから面白いなという思いをマイキーに落としてみたって感じかな。それと日本には四季があるので、季節に関連させてやってみたいというのもあって、さくらのマイキーが生まれたり。

K:

マイキーがアイコンみたいなところがあるから、ちょっと時代を反映させてレインボーカラーにしたりとか、その時代を意識しながら、というのもありますね。

 

M:

今でも監修はリサにだしているんですか?

 

K:

そうですね、全部リサにみてもらっています。

 

K:

リサもマイキーが好きだったり嫌いだったり、波があるんですよ。

 

M:

え!?マイキー自体をですか?

 

K:

マイキーを好きな時もあるし、ちょっと嫌なときもある)。

 

S:

はじめはすごく好きだったのに!

 

K:

いろんな時期があります。

 

M:

家族とか恋人とかにもありますもんね、そういうこと。

K:

リサ自身も猫を昔から飼っていて、モーゼスという名前の猫は、実際に陶器の作品になっています。3匹くらい飼ってたんですよね。昔から猫が好きですね。あのスケッチのシリーズを作った時に、猫はミステリアスだから好き、と言ってましたっけ。たしかにマイキーもミステリアス。

 

S:

ミステリアスすぎる!

 

M:

何考えてるのかわからないですよね。

ミステリアスな猫

 

Q10:ベイビマイキーはいつ、どこで、どうやって生まれたのですか?

 

K:

リサ・ラーソンのビンテージで、マグカップがあるんですね。ドイツかオランダのために作られたマグカップ。珍しくリサがイラストでモチーフを描いているデザインなんですけど、そこにマイキーのちっちゃい版みたいなのを見つけて。「あれ!?これ、マイキーの赤ちゃんじゃない!?」ってなってリサに聞いたんです。そしたら、「赤ちゃんでもないけど、まあ、そうだね。」みたいになって。一応ベイビーマイキーという名前にしたんですけど、マイキーの子供ではないという。幼少期、みたいな。ミステリアスにしています。

S:そうそう。なんかちょっとその辺が、曖昧になってる。マイキー自身も男なの?女なの?ってね。

 

K:

一応性格付けでは男にしたんでしたっけ?

 

S:

ヨハンナは「俺は王様」みたいな感じで性格をつけてくれてて。

 

K:

はっきり言及はあまりしてないんです。

 

M:

なるほど。ベイビーマイキーを見つけて、日本でもグッズを作ろうという話になったんですか?

 

K:

そうですね。日本でリサの人気が60代くらいの人から、その娘さん、そしてその赤ちゃん、という三世代くらいの層になってきて。こどものグッズも作りたいというのもあって、生まれました。

 

M:

それはいつ頃の話ですか?

 

S:

2017年くらいかな。ビンテージのマグカップの復刻版をつくったとき。

 

K:

これはうちがつくってる現行品ですけど、全く同じデザインのカップをドイツかオランダのために作っていて。それの復刻版なんです。

 

 

 

Q11:一番思い出深いマイキーエピソードはありますか?

 

K:

思い出深いマイキーエピソード…!

 

S:

新入社員の子がマイキーを別に好きでもないって言ったことかな。

 

M:

今は好きですよ!出会った当時はそこまで好きではなかったという話です。

 

K:

やっぱり松屋かな。子供が「マイキーだ!」って言って走ってきたこと。「なんかこの猫見たことある…」から、「この猫=マイキー」になった瞬間。今は結構マイキーって言ってくれる人が多いですもんね。

 

S:

慣れてきたね!私はやっぱり、「これだ!」って思ったときだよね。この子を表紙にしよう!ってなったとき。

 

K:

あとは、電車とかでマイキーの鞄とかキーホルダーとか持ってる人見ると嬉しいよね。

 

S:

そうそう。グッズをもっている人をみると、わぁってなるね。

 

 

 

Q12:一番気に入っているマイキーの商品はなんですか?

 

S:

BABY NUMBER BOOK』かな〜。やっぱり。

 

K:

私は、キーホルダーかな。

 

S:

顔違うけど?

 

K:

顔違うけど。リサがそのために原型を作ったんですね。面白かったのは、リサは陶芸作家だからアイテムによって原型を新たに作りたいって言っていて。普通、キャラクターって2Dで生まれたら、それをそのまま3Dにするじゃないですか。でもリサは、キーホルダー用に原型作るねって作ってくれたから、若干顔が違うんですね。それは結構面白かったですね。いつものふてぶてしいマイキーじゃなくて、ちょっととぼけてる感じ。

 

M:

今販売しているキーホルダーはそのときのままの顔ですか?

 

K:

そうですね。だから海洋堂のガチャガチャのフィギュアとか、2Dのマイキーを忠実に再現しているものとは、少し違う雰囲気なんです。

 

M:

ちょっと柔らかい、ぽやっとした顔ですもんね。

 

K:

そうそう。色も赤じゃなくてちょっとオレンジっぽい色で。

マイキーと、旅するトンカチ

 

Q13:作っていて面白かったグッズはありますか?

 

S:

やっぱり、海洋堂で作ったのは良かったよね。

 

K:

海洋堂は、やっぱり2Dのものが3Dになるっていう流れが凄かった。ウルトラマンのフィギュアとかを作っている原型師さんがマイキーの2Dを見ながら想像を膨らませて作ってくれたんです。

 

S:

海洋堂と言ったら、フィギュア界のレジェンドだからね!伝説!!

 

K:

だから、その方々がマイキーを作ってくれるなんて、っていう。我々も海洋堂さんのある大阪にいきましたね。リサも「この人たちは天才!」と言っていました。

 

S:

海洋堂さんで作れたのはすごく光栄なことだったし、私たちも楽しかったよね。

S:

あと、トートバッグもよかったね。

 

K:

そうですね。あれもいい商品でした。この鞄は、形からポケットまで全部企画して、布のプリントも初めて全部日本で作ったんです。すごいロングセラーで売れている商品です。あとは、箸置きですね。

S:

これはね、箸置きが予想以上に売れて、もっと作ってください!って連絡したら、「大変なんだから、一回やりにきな」って言われて。

 

M:

ええ〜〜!

 

K:

すごい売れたんですよ。1000個くらい入ってきてもすぐに売れちゃうくらいで。「早く入れてくださいよ!」って波佐見焼の人に連絡したら、「どんだけ大変か、作りにきなさい」って言われて。笑

 

S:

ものすごく大変だった!

 

M:

すごい…。

 

K:

作りに行ったら、めっちゃ手作業で、ちょっとずれるだけで太っちゃう…みたいな。

 

S:

型から出した時に、たい焼きみたいにはみ出す部分があるのね。あれを、手作業で一個一個削るの。その削り加減で、太っちゃったり、えぐれちゃったりして。笑

 

K:

痩せ細っちゃったりして、やばい…みたいなね。

 

M:

 

S:

本当に大変だったんだよー!

 

K:

しかも転写(マイキーの顔や柄の部分)も手で貼るから、ちょっとずれるだけで変な顔になっちゃったり、めちゃくちゃ大変でした。

 

S:

しかも7箇所くらい回るの。

 

K:

一つの窯元で作れる産地もあるんですけど、波佐見焼は分業制度なんです。型はここで作って、転写はここで、焼きはここで、とか色々分かれて作っていて。波佐見の小さな町でこの猫たちが7箇所をまわって作られていたんです。ご高齢のおばさまたちが転写で貼って、腱鞘炎になっちゃったりね。

 

S:

そうそうそう。あまりにもたくさん作ってって言ったから腱鞘炎になっちゃったんだよね。

 

M:

生産の大変さがわかった経験だったんですね。

 

K:

これも、この箸置きのためにリサが原型を作ってくれて、顔が違うんですよね。

 

S:

マイキーより優しい顔。かわいい。

Q14:今、なんでも作れるとしたら、どんなものを作りたいですか?

 

S:

マイキーパークかな。

 

K:

遊具とかですかね。マイキー滑り台とか作りたい。

 

S:

あと、飛行機とかね。

 

M:

ラッピングで。うんうん。

 

S:

それから、マイキーバス?

 

K:

マイキーバス、かわいい。

 

S:

あの形じゃないとね。

Lisa larson