「にっぽんのリサの猫」を作ることになって、まっさきに思い浮かべたのは、益子焼のT工房のKさんのことだ。これまで、定番の平皿や湯呑み森と動物の絵皿シリーズ、「くまもとのくま」に、「にっぽんのハリネズミ。」といった作品を手掛けていただいていて、リサのジャパンシリーズにはなくてはならない工房だ。

しかし、今回の「にっぽんのリサ猫」は、いつもとかなり違った取り組みになる。一番の大きな違いは、まずひとつの工房でリサの原型をもとに型を作った後、その型を次の工房に引き継ぎ、リレーのように全国の工房で異なる猫を作っていこうという試みなのだ。これは「楽しい企画」に思えるが、現実的には難しい面もある。型というのは、製作工房にとっては原画のようなもので、その工房の命といってもいい。なので、この試みは、その命を転用させてくださいというお願いである。

また、今回はオリジナルのリサの作品と全く同じように作って欲しいというとこではない。それぞれの工房にはそれぞれの特徴があり、制作工程で人間の手が加わるので、関わる人の個性がでる。工房と個人の個性を取り込みながら、リサのオリジナルの雰囲気の「よさ」を母親から受け継いだ魂のように保ったまま、その土地で今生まれたばかりの、本当の生き物のような猫を目指しているのだ。

これはいつもの仕事とは大きく違うはずで、なかなか面倒な試行錯誤も必要なはずだし、そもそも、そこを楽しんで作っていただくことでしか、幸せなリサ猫は生まれないはずだ。さて、そんなお願いを誰が笑顔で引き受けてくれるだろう。と、思った時に、やっぱり益子のT工房のKさんしかないと思った。

Kさんは私たちの話を聞くと早速やり方を考えてくれた。Tさんはどんなお願いでも出来ないではなくどうやったら出来るだろうと考えてくれるのだ。益子焼きの特徴を出すためには、あえて益子ではなく信楽の土を使い、益子の伝統的な釉薬である「並白釉」を使用するのがいいだろう。磁気ではなく陶器で作り、手描きの風合いを大事にしよう。そして、猫好きな30代の女性を中心に制作チームを組んでくれた。常時5人体制で制作していただいている。

この第一弾のあとのバージョンもすでに試作に入っているが、猫好きな人たちが多いので、いろいろとアイデアを出してくれているようだ。

難しいところは、やはり顔だそうで、型に薄いガイドの溝をつけて、それに沿って描くのだが、人の手で描いていくので微妙に違いが出る。私たちは、最終的にはオリジナルの雰囲気を崩しすぎず、しかし、それぞれの描き手の個性も反映したいという我儘な希望なので、実はそのバランスがいちばん難しいらしい。私たちも、要望しながら、そりゃあ難しいわ~って思っています。すみません!今回は、いつもの工房での手法を離れて、新しい試みも随所にしてもらっている。例えば、「くまもとのくま」ではスプレーで着色しているところを、今回は顔料を塗布した後に一度軍手で拭き取ることで、微妙なムラやかすれを作り出している。それがよりオリジナルに近い、自然な仕上がりを生むのだ。

お話を聞いていて面白かったのが、こちらのT工房では何度もリサのプロジェクトに関わってもらっているが、原型を3Dスキャンしてデータにしてから形を作っていくという、ある意味で現代的なやり方が、通常の工程とは違うようで、そのことが逆に新鮮で楽しいそうだ。ここは意外な驚きだった。人間的でないところが、物足りないと感じるわけでなく、そこを楽しんでもらえるところに、リサが何でも楽しんだこと、自分の作品が、自分の手を離れて遠い国で作られ、最初の予想と違った形ででてきても、常に楽しんでいたことを思い出した。結局は、楽しむ力が、人に「楽しい」をリレーできる力になるのだ。

益子は古くから、台所用品を中心に作る産地だったこともあり、民藝色の強い焼き物が多かったそうだが、その後、全国から陶芸作家やアーティストが移り住み、自由な制作ができる土地として発展してきたそうだ。もちろん、そういう地盤があるからこそ、私たちと一緒に仕事をしていただけるのだと重々承知している。歴史に感謝。リサと濱田庄司さんとの出会いに感謝。猫に感謝。T工房とKさんと、30代の女性たちに感謝。「にっぽんのリサ猫」を応援してくださる皆さんに感謝します!

"Lisa's Cats On the Road"

「にっぽんのリサ猫」は、益子からはじまります。乞うご期待!



Lisa larson