聞き耳を立てる。-丹波編-
丹波焼の昇陽窯さんにお話を聞く
850年の歴史を持つ丹波焼は、現在、50数件の窯元があり、そのほとんどが何らかの血縁関係にある。いわば「地元ネイティブ」の人々により継承されている。今回「にっぽんのリサ猫」を制作していただいた昇陽窯(しょうようがま)さんは三代目の大上裕樹さんが中心になり、奥さんと、両親(二代目)、そして若いスタッフ4名という体制で、まるで家族のように丹波焼を作り続けている。
大上さんはもともと家業を継ぐつもりはなかったが、高校1年のときに初代の祖父の葬儀で、祖父の仕事が多くの人に影響を与えていたことを知り、心が動かされた。それが契機となり美大へ進学し、陶芸の道を選んだ。卒業後は外部に就職し修行期間を経て昇陽窯に戻った。一度外に出たからこそ、丹波焼を客観的に見ることができるようになったと言う。その視点が今回のリサ猫に大いに生かされたと感じた。
美術大学で知りあった奥さんは石川県出身で染色を学んでいたが、結婚を機に丹波篠山へ移り住み、それから本格的に陶芸を学ぶ。今ではリサ猫の製作を一手に担っている。
今回の「リサ猫」は、荒々しい毛並みの表現が今回の猫の最大の特徴となっている。これは、乾燥前の陶土に鉋(かんな)を使って線を削り出す装飾技法である「しのぎ」という技法で出来ている。

(TK:トンカチ O:大上さん)
TK:ザラザラした質感がまさに求めていた野良猫でした。
O:白い猫には“白化粧”を施し、茶色の猫には“飴釉”という丹波焼では定番の釉薬を使用しています。ざらざらとした手触りが、野良猫っぽさを表現するのにぴったりでした。

TK:奥さんがリサをお好きだったとお聞きしましたが
O:そうなんです。妻が学生の頃からリサ・ラーソンが大好きで、2024年のリサ・ラーソン展(滋賀・陶芸の森にも巡回した)に行ってきて、その1週間後にトンカチさんからオファーをもらったんです。あまりのタイミングに最初は嘘かと思ったんですが本当でした。

TK:やってみて難しかったことは何でしょうか
O:「顔」です。ほんの少しの違いで、まったく別の猫のように見えてしまうんです。回数を重ねるごとに安定してきましたが、表情づくりは今でも緊張します。
TK:私たちも一番顔が大事だと思っていました。顔が同じじゃダメで、優しすぎてもダメで、そして野良猫チックな自由さとプライドの高さが欲しかったのです。それで何度もやり取りをさせていただきました。

O:型にはうっすらとガイド線がありますが、それをもとに針で手彫りしていくので、微妙な違いが表情に出ます。すべて手作業なので、1匹ずつ顔が違いますが、そこが味わいになったと思います。試行錯誤の末に画鋲の針が理想的であることに気づき、それで掘りました。
TK:このプロジェクトでは、実にたくさんの試作品が生まれました。
O:やってから考えようという気持ちでたくさん作りました。作ってはフィードバックをもらって、少しずつ調整して、求めている野良猫に近づいていきました。最初に型から出したときの「かわいい〜!」という感動は忘れられません。

TK:これからについて聞かせて下さい。
O:丹波焼は850年の歴史がありますが、全国的な知名度はまだ十分とは言えません。今回のプロジェクトを通じて、これまで届かなかった層にも丹波焼を知ってもらえるチャンスになると感じました。関西中心だった流通が、東京など他の地域にも広がってくれると嬉しいです。そして若いスタッフが経験を積んで、いずれは独立して丹波焼を盛り上げていってくれたらと思っています。
また、今回のプロジェクトで「置物」というジャンルに可能性を感じました。いつかスウェーデンに行って、リサさんの作品を作っている工房の方々と話してみたいです。日本ではこんなふうに作っているんだよ、ということを伝えたいですね。