1989年の私と彼女のクリスマス
「とてもいいことに、あなたはすごく幸せな人だ」とデロリスは話し始めた。
1989年のクリスマス、デロリスの向かいにはフランネルのシャツにジーンズの小柄な女性、M. B. ゴフスタイン、私の妻がいた。
私たちはその年の休暇をルイジアナ州ニューオーリンズで過ごした。
その時、コンティ通りの『カップの底』で占い師のデロリスと出会った。表はギフトショップで、特産の紅茶、水晶玉、タロットカード、易経、ヤロウスティック、占星術や手相の本が並んでいた。その奥は琥珀色のビーズのカーテンで仕切られていた。お客が個室に入るとカランコロンと音がしてカーテンが揺れた。
ブルック(私たちは皆、ゴフスタインのことをミドルネームで呼んでいた)は新しいもの好きで、茶葉を読む占いは初めての体験だった。
これは、紅茶を飲んだあとのカップに残った茶葉からイマジネーションを得る技術だった。
デロリスはカップに顔を近づけた。
「あなたは大きな雄牛を持っている」デロリスは葉の集まりを指しながら言った。
「そしてこれが彼の伴侶の、美しい雌牛。素敵でしょ?」
「あなたには能力がある。パワーもある。才能もある。あなたは雄牛の角を掴んでいるけど、彼はとても頑固そうだ。あなたの思い通りにはならない。ちょっと待ってくれ、話し合おう、って言ってるわね。」
ブルックは思った。「たぶん、牛は私の仕事のことだ」
彼女は応えた。「私は仕事を変えているところ、または変えようとトライしているところなの。」
「あなたはとてもスピリチュアルな人です。このくらいの大きさの本を出すつもりね」とデロリスは両手を15センチほど離した。
ブルックは驚いた。彼女は自分のことを何も話していなかったのだ。
ブルックは生涯このエピソードを忘れず、何度も繰り返し話した。
彼女は自分の本がどこかで見られている証拠のように感じたのだろう。
「そのくらいの大きさの本です。」ブルックはデロリスの方に乗り出して言った。
「私はそれらを出版したの。だから、それはもう起こったことなの。」
「そうかしら。もっともっとたくさんあるし、次から次へとやってくるわ。」
ブルックは大きく息を吸い込んだ。
「私の本に対する人々の不満は、大人が好きな本だということなの。それに私は今、絵を描く代わりに写真を撮っているのよ。」
ブルックはその年に最後となる本を出版した後、ティーカップや人形たちの秘密の生活を写真に撮り始めたばかりだった。彼女は、もう新しい本は出さないと決めていた。
新しいことがしたかったし、出版社が望むままに同じことを繰り返すことはできなかった。日本で出版社を営む末森千恵子さんを敬愛していたので、これからは日本でしか出版しないと決めていた。
それはとても勇気がいることだったし、ブルックは、それが間違いかもしれないとわかっていたが、自分の魂にとって正しくなければならなかった。
「ご主人はあなたを献身的に愛しています」とデロリスは言った。
「あなたと一緒にいないときでも、彼の心はあなたと共にあります。」
実はその時、私はお店の中をぶらつきながら、曇った水晶玉の中に何かが見えないかと期待していた。けれど見えたのは、何の意味もなさそうな霧のような汚れだけだった。ふいにブルックが私の名前を呼んだ。
「デイブ、素晴らしかったわ!」と彼女は言った。
「あなたの茶葉も見てもらわなくちゃ!」
「自分の未来はもうわかっているよ。私達の未来に何が起ころうとも、私にとってそれが最高の未来なんだよ。」
2023年のクリスマス、デロリスの予言は的中し、M. B. ゴフスタインの本は新しいカタチで出版され続けている(トンカチありがとう)。彼女の魂は今も私たちと共にあるのだ。
皆さん、よいクリスマスを。そして、未来が、優しさと発見と愛に満ちていることを。
David Allender