その頃のM.B.ゴフスタイン
~『私とお隣さん』が生まれた時代~

 

『私とお隣さん』を刊行する準備が整った時、当時のゴフスタインを知る人の話を聞きたいと思った。すぐに彼女の旦那さんであるデビッドさんと、長年仕事を共にした編集者であるエディットさんのことが思い浮かんだ。「何でもいいから、当時のことを教えて欲しい」という私のアバウトなオファーに、彼らはすぐに返事をくれた。この記事は、それをまとめたてリミックスしたものだ。私は彼らの文を読み、写真を見て、知らない部屋の扉を開けてしまった気持ちになった。心がふわふわして、気持ちはまだ整理できていない。

 

ここではゴフスタインの呼び方について、彼女と親しくしていた人々に習って「ブルック」と呼ぶことにした。


彼女の声

1980年、作品の朗読会を控えていたブルックは、自宅のキッチンで『私とお隣さん(原題:Neighbors)』の朗読の練習をしていた。これはその時に録音された音声で、旦那さんが保管していたものだ。静かな静かなキッチンに、彼女の声に小さなエコーがかかり、シンガーソングライターが歌うように読む、彼女の優しく、真面目な声。

©︎ M. B. Goffstein 

※この音声は、1980年に録音されてから、現在まで公開されることのなかった個人的な録音である。

 

写真1:ブックフェスティバル

1979年にニューヨークで開催された、野外ブックフェスティバルでの写真。自著『ほんとうの私たち(原題:Natural History)』のポスターにサインをしている笑顔の彼女が写っている。この本は、『私とお隣さん』と同時期に出版された本なので、これらの写真は1979年当時の彼女を知ることができる貴重な記録だ。「彼女は、サイン会に並ぶ人々の長蛇の列の写真をとても誇りに思っていた」と旦那さんから聞いて、私まで嬉しくなった。彼女はやっぱりずっと少女なんだと思ったし、そりゃ私だって並ぶよ、だって私のゴフスタインなんだからね、と意味もなく自慢したくなった。1979年が羨ましい。人々はこんなに幸福そうに列に並んでいて、その先に彼女が恥ずかしそうに笑っていたのだ。

 

©︎Peter Schaaf

1979年

1979年はブルックにとって大きな年だった。彼女は初めてのカラー本である『ほんとうの私たち』、この『私とお隣さん』、そして彼女の初期の児童書を一冊にまとめたアンソロジーを出版した。彼女の仕事が一つの大きな節目を迎えたのが1979年だった。

編集者は知っている

彼女と長年仕事をしてきた編集者のエディットさんは、デビュー作『あの子たち(原題:THE GATS!)』を準備をしているブルックと知り合って、それからずっと連絡を取り合う友人になっていた。その二人が最初に一緒に仕事をしたのが『私とお隣さん』だった。下記は彼が教えてくれた話。

私はこの本は完璧だと思った。ブルックに一切の変更を求めなかった。ある内気な人が、同じように内気な人と親しくなろうとする1年にわたる試みについての本。彼女の控えめな語り口は完璧で、音読にも最適な本だと思った。 

私たちは、なぜブルックがモノクロの線画を完成させるのにこれほど時間がかかるのについて、たくさん話し合った。彼女は、掃除機をかけている絵を指さしながら、掃除機のホースとコードなどを描くのに、ほぼ丸1日かかったと言った。

彼女はこんなことを言った。
「仕事をする必要がなかったように見えるまで、仕事をするべきなのよ」

彼女

『私とお隣さん』は、ブルック自身の性格をほぼ完璧にとらえた本だ。ブルックは几帳面なハウスキーパーであり、物を愛し、同時に人を愛した。彼女のところで働くものは、それが配管工であれ、電気技師であれ、誰もが彼女の友人になった。ブルックは人と話すこと、その人について知ること、その人が世界をどう見ているかについて知ることが大好きだったのだ。

 

©︎Peter Schaaf

孤独

『私とお隣さん』を書いた当時、彼女はニューヨークのアッパー・ウエスト・サイドに住んでいた。この本で表現されている「孤独」は、芸術家としての彼女自身の経験からきている。芸術家は仕事をするために孤独が必要だ。けれど、時としてあまりに求心的に人との接触を切望する。矛盾して、両極から引き裂かれている。

何か美しいもの

亡くなる前、病室に入ってきた看護婦に彼女が尋ねた。「何か美しいものを持って来てくれた?」と。それは、彼女が初対面の人にいつも求める希望だった。


 

献辞

『私とお隣さん』には、献辞のページがない。いつも彼女の本は誰かに捧げられているのだが、この本は誰にも捧げられていない。たぶんこれは、彼女が彼女自身に捧げた本なのだ。

写真2:自宅

 ブルックが亡くなった直後の自宅の写真。彼女は、『私とお隣さん』の登場人物のように、いつもきちんとした状態で家を保っていた。そして登場人物たちと同じ様に、棚の上には大切にしている小物たちが置かれていた。その多くは彼女にしか価値がわからないだろう小さき物たちだ。それらがきちんと静かに並んでいる。この棚には、彼女の物語の秘密も、そのヒントも、心の置き場も、全部があるように思えるのだ。

 

©︎Peter Schaaf

 

【商品情報】

私とお隣さん(通常版)
価格:¥2,750(税込)
作・絵:M.B. ゴフスタイン
訳:トンカチ 訳   
ISBN / 978-4-910592-28-2
本文:32P
仕様:ハードカバー(紙クロス)、箔押し仕上げ
サイズ:W167×H204mm

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私とお隣さんBOXセット
価格:¥25,300(税込)
BOXサイズ:W250×H275mm×D66mm
仕様:ハードカバー(布クロス)、箔押し仕上げ
[BOXセットの内容]
・ライラックカラーのクロス張りBOX
・絵本「私とお隣さん」
・積み木セット

→商品ページはこちら

M.b.goffsteinTonkachi books