「私と、私の100枚のゴフスタイン」についてわいわい語る。

 

前口上

トンカチの突撃隊のMでございます。
こちらは、ギャラリー「のこぎり」で開催されるM.B.ゴフスタインの作品展「私と、私の100枚のゴフスタイン」について大いに語り、大いにプロモーションしようという目的で、作品を選んだ佐々木美香(トンカチのゴフスタインシリーズのアートディレクター)にインタビューしたものです。予想通りのひっちゃかめっちゃかな展開となりましたので、ところどころ私がざっくりとまとめながら、普段着の感じ満載でお届けいたします。

 

歴史を早送りする

佐々木さんは30年ちかく前にゴフスタインを知って(この辺の詳しいことは「ゴールディーについて、わいわい話す。」をご覧ください)、その後トンカチの前身会社であるパワーショベルの時に、写真とあまり関係がないアーチストに写真を撮ってもらおうという企画があって、佐々木さんが大好きな3人にオファーしたことから始まります。その中の一人がゴフスタインさんだったわけです。結果、仕事は実現しなかったのですが、そこから10年ほどして、再度コンタクトして商品とか絵本とか作りたいって話をします。「私は本当に絵が好きだったので、あなたの絵を飾るための、そんな絵本をつくりたい!って言ったんだよね」と、佐々木さん。話はここからスタートします。

S(佐々木さん):トンカチになってから、もう一回オファーするの。その頃、自分の状況も変わってて、前は夢見る学生だったから、絵が単純に可愛い!ってそれが全てだったんだけど、働き始めてからは受け取り方も違ってきてゴフスタインさんの絵に励まされたりしてて。で、これはもう同じ境遇の大人に見てほしい、とか、絵本コーナーの本じゃないなこれ、と思ったりしてたの。その時はもうリサ・ラーソンと仕事をしてたし、リサを分かる人には絶対通じるって思ってた。だからもう一回コンタクトしたんだよね。そのときは、絵本から色々な商品を作りたい話とか絶版になってる本を全部出したいとか、今出てる本を違う装丁にして出したいとか、やりたいことをいっぱい言ったのね。でも、ご本人は「絵本は過去のことで、今は触れたくない」って言ってて。「ええっ!」ガビ~ンってなって、私なんかその絵本に今も励まされているのに~!って。今はよくわかるんだけど、その時はなんか、悲しかった。

M:もう今の自分の心は別の方向に向かってるというのは、アーチストと仕事をしていると時々ありますが、当時のゴフスタインさんは、過去作品に対してもっと強く否定的で、思い出したくもないという感じだったんですね。

 

これぞ、私とお隣さん!

S:それで、ゴフスタインさんは自分が当時取り組んでいた作品を見せてくれたのね。それは絵本ではなかったの。だけど、今も当時も本当に申し訳なく思うんだけど、当時の私はその作品をがやりたいわけではなくて、やっぱり彼女の絵本が作りたかったの!なので事もあろうに私は、それはやりたいことじゃないんですって言っちゃったのよ。それでその時もお仕事はできなかったのね。

M:この、ラブコールが通じなかったという悲しい感じって、まさに『私とお隣さん』にでてくる「私」とお隣さんとの関係ですよね。むこうとこっちが別の方向を見ているっていう。特に雪かきのシーンとかもろですよね。

M:私の気持ちはもうそこにないのよ、と自分のかわいい作品に対してはっきり別れを告げる。ゴフスタインさんはそういう面では絵本に出てくる人と同じ誠実さですよね。本にでてくる人は、ゴフスタインが理想とした人物なのか、本人そのものなのかわからないけど、、、

S:私は本人そのものだと思うなあ。今になってみると、ゴフスタインさんは絵本でできることをやり切ったのかなって思います。だからもう絵本ではなかったのかなと。

 

いつも違う本になる

M:ゴフスタインさんの本はその人によって読み方が大きく変わりますよね。

S:同じ人の中でも変わりますよ。私も初めは、ブルッキーとか、ああ可愛いって見てたし、『私とお隣さん』とかにしても特に内容を深く考えたりはしないで、可愛いなーと思ってみてたんですけど、途中で社会に出て仕事をしていく中で、ゴールディーをみて「あ、わかる、」ってなったり、自分を重ねたり、絵本に後押しされるようなことも出てきたから。あとは例えばブルッキーの羊を単純にかわいい!と思って見ていたけど、あの絵本自体が「旦那さんに捧ぐ」本なんだよね。それを見てからブルッキーと羊を誰かとの関係に重ねて見るようになったりとか。年を重ねるごとにそういう読み方をするようになった。赤ちゃんの時、10代の時、20代、30代、と読む年齢によって見方が変わってくる本だと思う。同じ絵本でも読む歳によって感じ方が変わる。

M:そうですね。名作と言われる本はそういう側面がありいますがゴフスタインさんの本は特にそうですよね。数ヶ月後でも全く読み方が変わる。

S:そうだよね。私なんか自分たちが出したゴフスタインさんの本でも作ってる間に読み方が変わるもの。

 

やっと本を作る

M:そして、その後彼女は亡くなります。でも、そこからがあって、彼女の旦那さんから連絡があって、「自分は彼女の作品を次の時代に残していきたいから、あなたがやりたいことをやってください。」って言ってくれたんですよね。

S:旦那さんが、ゴフスタインさんの死後に、たまたま私が送ったメールを見たんです。それで、「感動した」と連絡をくれて。旦那さんが傷心していた時期だったから、それとともに、彼女の作品をこれからもずっと残したいと思っていた。そんな時にメールを見て、連絡をくれた。最初のオファーから14年が経ってました。

M:その頃、日本で絶版になっている本も多かったり、色々なことが重なってトンカチでゴフスタインさんの本が出せるようになったんですよね。

 

絵本に押される

S:けれど、ここでまた私は絵本的な状況に陥っちゃうんです。「ゴフスタインさん本人は絵本をもうやりたくないと言っていたのに、(私たちが絵本を出して)いいのかな~」って、まるでゴールディーが自分が素晴らしいと思って買った骨董に自信がなくなってくるような、あの状況になっちゃうんです。 でも、ゴールディーもさんざんグズグズした挙げ句、最後のシーンで妖精がでてきて「そんなことないよ」って言ってくれるじゃないですか。それと重ねて、自分がやりたいと思っていたことを通すのは間違いじゃないって後押しされるんです。

M:絵本をスタートする時に、その絵本自体に後押しされる!?

S:そう。おもしろいでしょ。そこが彼女の本のすっごいところなんだよね。

M:常にファンタジーであり、常に実用書であり、常に自己啓発書である。

S:そうそうそう。自分はゴフスタインの本を見て、色々考えたり知ったりしてきたから、それをもっといろんな人に知ってほしいと思った。それで、やっぱりゴフスタインさんの絵本をやりたいと思った。とにかく、ゴフスタインの絵本は根底にいつも同じテーマを持っているんだけどフォーカスの仕方が違うんだよね。1つのテーマを掘り下げるんだ。そのためにはフォーカスを変えて繰り返し諦めないで伝えていくんだっていうのが、彼女から学んだ(学びきれてない)最大のことなんです。

 

ゴフスタインの展示について

M:さていよいよ今回の「私と、私の100枚のゴフスタイン」についてです。ここまで長過ぎました~。これは「のこぎり」というギャラリーができてしまったので(笑)いつか展覧会をやることになるなとは思っていたんですけど、これまた突然に決まりましたね。

S:トンカチとしてはゴフスタインの本格的な回顧展をしたいとずっと夢見ているんですが、そ~いうのは縁ありきなのでただ待っててもしょうがないなと。せっかく「のこぎり」というスペースがあるので、まずはここで自分たちだけで出来る範囲のことをやってみようって話になったんですね。なので、大それたことは考えないで、できることをやりました。だから、原画でなくて絵を選んで印刷したものを展示して、立体作品のお披露目もすれば何とかできそうってことで開催が決まったんです。あとは本も色々出てるしね。絵は私が100枚選ぶ、ということになったんだけど、普段はあまり「佐々木美香」という名前なんか出さないんですけど、企画のOさんが言うには、「ゴフスタインと佐々木が浅からずの関係があって、それが出発点となってトンカチとゴフスタインがつながっている」とかなんとからしいんですけど、きっと「名前を出したらさぼらないだろう」くらいに思ってるんでしょう。

M:きっと、そうですね(笑)。自分の名前がチラシに出てくると、より背筋が伸びますよね。いい意味でのプレッシャーというか。

S: そう。ちゃんと選ばなきゃいけない。あとは、絵だけの目線で選ぶなら、ということも考えながら選ばせてもらいました。

M:これって佐々木さんが今の目で見たゴフスタイン・セレクションということですね。でもこの機会がなかったら、絶対にやらなかった事ですよね。もう選び終わったんでしたっけ。

S:まだ終わってない。はじめパッと選んだんだけど、よくよく考えると…ってなってずっと悩んでて~。

M;パッと選んだ時からだと、1ヶ月以上ですよね。

S:なんでそーいうこと言うの。私がグズみたいじゃない。

 

4種類も作ったフライヤー

M:え~と、フライヤーは早かったですよね!(急に明るく!)

S:そうだよ。複数枚のイメージを選んで、全体のイメージを作るっていうのは、パワーショベル時代から散々やってきたことなので、元々得意なんです(自慢げ)。今回のフライヤー4種類あるんですけど、Oさんから、ここで使うイメージはゴフスタインの中のあまりに一般的なものは外しましょうという制約をつけられたのね。映画のフィルムの編集室に落ちてた一コマみたいなノリでやってくれと。

M:決定的なシーンを使わない、ということですね。それで見る人がなんだろ?ってなるっていう。

S: そもそも、なんでフライヤーが4種類もあるんだろって思うでしょうけど、トンカチはなんにしてもこ~いうのが好きなんだよね。「のこぎり」のフライヤーなんて変わったのばかりだしね。ゴフスタインの絵はフライヤーを作るっていう目で見るとまた全然違って見えるんです。やっぱりすごいんですよ。絵の力が。なに!?これナンデスカ?って思う。超モダンな感じのもあるしシュールもコミカルもある。裏面にはちょっとメジャーな羊とか、ああ可愛いねって思うものを入れました、あとこれ(おばあちゃん)は個人的にただ好きだから入れました。

 

私の100枚のゴフスタイン

M:展示用の100枚はどんなことを考えながら選びましたか?

S:100枚という数の制限の他に、経済的理由から持ってる額を使うことになったので額のサイズの制限もあります。そこが難しくて。それで右往左往してる。でも制限があったほうが自由なのよね。

M:自分が選ぶ100枚と他人が選ぶ100枚では、どこがちがうと思いますか?

S:やっぱり、なんだろうな。カタチ?カタチっていうか、雰囲気かなあ。オモロ!みたいなところかな?名シーンとか、素晴らしくキマってる絵とか、本の中で一番大事なシーンとかとあまり関係なく選んでます。そーいう人なんです私が。

M:心に引っかかる、「面白い」ところ?いわゆる可愛い?

S:今は「かわいい」って言いたくないの。かつてなら「かわいい」という言葉で何でも言えたんですけど、今はそれでは伝わらなくなった時代だから、でもそれに変わる言葉がない。敢えて言えば、道に落ちてるバナナの皮が面白いなと思って、一度通り過ぎたけど戻ってきて写真撮っちゃうみたいな。その瞬間に似ている。そういうような選び方です。

M:トンカスタ!それってまさにトンカスタ的な選び方ですね。

(註)トンカスタとはトンカチがやっている隠れインスタグラム。パワーショベル時代の面影を少し残しているスタッフに寄る写真投稿SNSにして商売っ気があまりなし。 トンカスタはこちら

 

絵が伝えること

M:佐々木さんはゴフスタインさんの絵は印刷されてもその良さが失われないって言ってましたが、その理由は何だと思いますか。

S:私は美術館とかに行って本物の絵を見て「わー、やっぱ本物の絵違うなー」って思って、で、図録見ると全然違ってがっかりする時があるじゃない。でもゴフスタインさんの場合はそういうふうにならない。その理由って何だろうと思って色々考えたら、感情とか空気感が感じられることかなと。自分との距離が近くて、自分にリンクするの。えっ、わかんないって?難しい!なんで言えばいいんだろう。う~ん。

(ここでOさん登場。下記はOさんの言い換え)
ゴフスタインさんははそれが印刷物になろうが(例え粗い印刷物になろうが)判型が変わろうが、コピーを何度も取ろうが、絵のクオリティが劣化しても伝わってくるものは変わらない。それはゴフスタインさんが伝えようとしているのが絵のディテールではなく感情のディテールであるから。だからそれは失われない。絵を描くってことを本人はそういうこととして考えているんだと思う。「詩のように描かれている絵」。言葉のようにして描かれた絵。

S:そうそう。大体そーいうこと。

M:絵を選びながら脱線したこととかありますか。

S:脱線だらけです!ワンカット、ワンカットみたいに選んでたんですけど、続いている絵(シューベルトの絵とか)を見ると、いかに細かい所まで描きこんでいるかがわかるんです。これを伝えるにはワンカットだけ抜き出すのではなくて、並べておいてあげないといけないと思って。その辺で脱線しましたね。初めは単体だけで選んでたけど。例えば見る人が、この、「シューベルトが曲を書き始めて乗ってきたら椅子ごと前のめりになっちゃうよ」みたいなところに気づいてほしいなとか。描き始める前の整えているシーンとか。インクの置き場所が全部違うところとか!そういうところは数カットないとわからないから一緒に見せたいって思ったんです。



M:ゴフスタインさんの絵はすごく写真的、モンタージュ的ですよね。絵本の絵も全てが、映画の一コマみたいです。

S:これだけの情報をこのシンプルな数ページの中に収めるのが本当にすごい!

M:100枚選んでみて、何か新しい気づきはありましたか?

S:ああ、やっぱりすごい!に尽きます。絵を見ている時間は幸せ~なんです。

 

古い本と新しい立体

M:展示で販売する古本について教えてください。

S:主にオリジナルの洋書になります。本当にボロボロのものもあります。あと、かわいいポイントが、図書カードがそのままついている本があったりするんです。「誰々に」とか書いてあったり、子供が落書きしちゃってたり。

M:物質的な本には旅してきた歴史があります。積み重なってきた記録があります。その痕跡が図書館のカードや子供の落書きとして残っていく。これがゴフスタインさんの本にはすごく合ってます。


S:あなた急に優等生みたいにまとめてるけど(笑)そうだね。普通の古本だったら、それで価値がなくなるし、そんなのやめてくれ!ってなるけど、ゴフスタインさんの本ならそういうところも許容される。というか、旅してきた生きた本だっていう味が出てくる。まるで、いっぱいステッカーが貼られた旅行カバンやスタンプだらけのパスポートみたいになるんです。そこを見て欲しいです。

M:ゴフスタイン初の本格的なフィギュアも公開されますね。

S:フィギュアは、立体のゴフスタインを見たかったという単純な気持ちから始まったんです。私の「指揮者さん」というフィギュアを作ってくれた造形会社の方に10年ぶりにお仕事をお願いしました。初めてのことで私もグラグラで、とにかく長いことかかりましたけど、とにかく出来ました。なのでこちらも皆さんに見て欲しいです。

M:あのゴフスタインの線がなくなって立体になるってどんな感じだろうって思いますよね。

S:そうなんですよ。そこがまたまたジレンマなんですけど、やりたかったことなんでやりました。自分たちがどうなるか一番興味があって見たかったんですよ。これはいわば私たちにとってのピクサーなんです。映画というものがそこまで来たという喜びがある一方で、もちろん違和感だってある。でも、何でもその先ですからね。そーいうことも全て、ゴフスタインさんの本が後押ししてくれているわけです。

M:なるほど。お後が宜しい感じになりましたので、まだまだ話は尽きませんがこの辺でお開きといたします。あとは皆様、どうぞ「のこぎり」までお運びください。新刊の『私とお隣さん』も既刊本もご覧いただけます。今回の展示をキッカケにトンカチのゴフスタインはいろいろと動きが出てきそうです。また楽しいお知らせが出来ると思います。今後にご期待ください!

S:皆さま、これからも宜しくお願いいたします。

 

後口上

「私と、私の100枚のゴフスタイン」
M.B.Goffstein (エム・ビー・ゴフスタイン)

◯会期:
2023年7月21日(金)-8月20日(日)
※水・木・金はウェブから事前予約が必要です。
※土・日・祝日のご予約は不要です。

開廊時間: 12時-19時

休廊日: 月・火

会場:のこぎり
〒150-0033東京都渋谷区猿楽町5-17第一西尾ビル2階
Tel 03-6712-7878
nokogiri@tonkachi.co.jp

 

​※展示販売作品は、原画ではありません。ジークレープリントで出力・額装されたものです。

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