カワタマリナさん

彼女はマリアンヌ・ハルバーグの制作をアシストしている。

彼女はアメリカで生まれ、育ち、今はスウェーデンに住んでいる。

彼女は陶芸作品を作るアーティストでもある。

そして、彼女は日本人だが日本に住んだことがない。

それが、我々が彼女について知っているすべてだった。


マリアンヌさんから、彼女が日本にやってきて陶芸修行をするらしいと聞いて、ぜひ話が聞きたいと帰国(来日?)したばかりの彼女にインタビューした。

 

テレビとカリフォルニア

 

トンカチ 
どんなテレビを見てましたか?

 

マリナ 
マンハッタン・ラブストーリー(※)とか観てました。

 

トンカチ 
笑。なんで日本のドラマなんですか?セックス&ザ・シティとかじゃないんですか?

 

マリナ 
なんでだろう

 

トンカチ
日本のドラマがしっくりきたのですか?

 

マリナ 
はい。ヒューマンドラマがすごく好きで、日本のコメディがすごく好きで。アメリカのジョークとかはよくわからなくて……。

 

トンカチ 
育ったのはどこですか?

 

マリナ 
カリフォルニアです(笑)。

 

トンカチ 
だったらアメリカのジョークはわかるでしょ?

 

マリナ 
うーん。わかるけど笑えなかった。

 

トンカチ 
いつまでカリフォルニアにいたんですか?

 

マリナ 
20歳です。

 

トンカチ 
20歳までいたら完全にカリフォルニアの子ですね。

 

マリナ 
割とそうなんです。でも、日本に来たら自分はカリフォルニア人って思うんですけど、カリフォルニアにはいると自分はやっぱり、日本人だと思います。

 

トンカチ 
自分が日本人だと思うときはどんな時ですか。安倍首相が気になるとか?

 

マリナ 
笑。そういうのはないんですけど、、、難しいですけど、気を遣うところかなあ、でも、日本人というものが何なのか、本当はそれすらわからないから、あまりはっきりとは判らないかもです。

 

トンカチ 
ご両親はもともと日本に住んでいた?

 

マリナ 
はい。大学からアメリカです。両親はサンフランシスコで出会って、私が産まれました。

 

※マンハッタン・ラブストーリー:TBS系ドラマで2003年10月9日~12月18日まで放送された連続テレビドラマ(全11話)。宮藤官九郎脚本で、テレビ局の近くで営業している喫茶店「マンハッタン」の、店長と店員や常連客たちの様々な想いが交錯するドラマ。

 

彼女の日本

 

トンカチ
日本のどこに興味がありますか?

 

マリナ 
日本の工芸とか、ものづくりの考え方とかに興味があります。

 

トンカチ
自分は日本人だという事を知っているから、そこに興味が向いたのでしょうか?

 

マリナ 
それもあるし、スウェーデンで2年間、美術学校に通っているときに日本人の友達ができて、その時にどうして作るのか、などの話を聞いて、こういう考え方もあるんだな、すごいなと思った事がキッカケです。

 

トンカチ
そのどこが、自分のカリフォルニア仕込みの考え方と違ったのですか?

 

マリナ 
基本を学ぶということです。

 

トンカチ
そこ、少し説明してください。

 

マリナ 
うーん、基本を学ぶのは普通に当たり前だと思うのですが、 カリフォルニアにいるときはそれがすごくダサいと思われていて、基本は知っていなくてはいけないけれど、基本を重要視することはカッコ悪いという風潮があったんです。その時は疑問に思わなかったけれど、最初に日本人と出会って2年間スウェーデンで暮らしたときは、基本ってすごく大切なことなんだなと判ったんですよね。

 

トンカチ
日本人が基本を大切にしている姿をみたのですが?

 

マリナ 
うん、人によって違いますがそういう人の割合は多かったです。

 

日本語という言葉

マリナ 
日本語って意見が最後につく。最後に「何とかじゃないですか」とか。アメリカは最初に意見を言ってから、説明が最後につくから全く違う。だから日本語を話している私と、アメリカで話している私は違うんです。

 

トンカチ 
日本語を話していると、日本人的な考え方になってしまう。だから日本人を好きな外国人はみんな、思考が日本人ぽいところがある。日本語はものの考え方を規定するところがあるのかも。日本語は小さいときから話せたんですか?

 

マリナ 
はい、あまりに上達してないけど。

 

トンカチ 
アップルといいながら、りんごとも覚えた?

 

マリナ 
日本語が最初ですね。保育園に入ったとき私が言ってることが通じない。みんな何をしゃべってるんだろうと思った。伝わらないと思った初めての瞬間を覚えています。

 

トンカチ 
日本人学校ではなかった?

 

マリナ 
はい。

 

トンカチ 
保育園に行く前までは両親とずっと日本語でしゃべっていて、保育園にいったら英語になった。その時の混乱を覚えているわけですね。嫌な感じ、不安な感じ、どんな感じでした?

 

マリナ 
今日はどこにいたんだろうという感じ。嫌な感じではないけど、それだけはちょっと覚えています。

 

トンカチ 
私は自分が小さいときの記憶だと、赤ちゃんのとき、洗面器の水がキラキラしているのは覚えている。あと、今日から幼稚園に行かなきゃいけないというのが、すごい嫌だったのを覚えている。そんな最初に近い記憶はありますか?

 

マリナ 
朝起きるの早いなって思いながら、階段を下って、食パンを食べたらおいしかった記憶です。

 

2つの自分

 

トンカチ 
日本語を使って考えるときは日本人ぽくなって、英語で話しているとカリフォルニア人になる。2つの自分があるというのはいつ意識しましたか?

 

マリナ 
すごい遅かった、大学生の時。

 

トンカチ 
カリフォルニアには両親以外の日本人の知り合いはいたのですか?

 

マリナ 
全然いなかったです。

 

トンカチ 
子供の時から日本のテレビを見ていた?

 

マリナ 
1つだけ日本のチャンネルがありました。ハム太郎とか、ドラゴンボールとかやってました。

 

トンカチ 
ご両親が日本語を忘れないために見せてたのかもしれませんね。

 

マリナ 
日本に住んでるおばあちゃんと、おじいちゃんと話せるようにってずっと言ってました。でも漢字の読み書きが全然できないんです。がみがみ言われましたが、学ぼうとしなかった。難しくて面倒くさかった。今ではそれを知らないのは残念だと思う。

 

トンカチ 
言葉を獲得しているけど文字を獲得していない。話し言葉だけを獲得している。そこに文学はない。

 

マリナ 
はい。

 

トンカチ 
あなたは日本に来ると、いろんな標識や看板があるけど、それは映像として見ている?

 

マリナ 
そうです。デコレーションとしてみている。

 

トンカチ 
私が中国やスウェーデンに行った時と同じように、何を書いてあるかわからないものとしてみている。でも普通にしゃべれるし日本人だし、おもしろいですね。電車に乗るとき、東京駅はどっちですか?と東京駅とそこに書いてあるのに日本語で聞くわけですね。

 

マリナ 
すごく恥ずかしいです(笑)。

 

トンカチ 
この人ふざけてるのかって思われますね。

 

マリナ 
おにぎりの中身もわからない。

 

トンカチ
そっか、鮭はどれですか?ときくわけですね。我々にはないシチュエーションです。映画を見ようと切符を買うボタンを押すときに、どの映画かわからないわけですね。でも、日本に来た時に外国人の視点でいられるのは、2度おいしいですね。カリフォルニア育ちの日本を知らないあなたと、日本を知ってるあなたが二人来るわけですね。1回分の飛行運賃で二人乗ってきてるのに、一人分で済むわけだ。ものすごく新鮮に日本が見えそうですね。

スウェーデンの生活


トンカチ 
20歳までカリフォルニアにいて、そこからスウェーデンにいくのですか?アート系の学校ですか?

マリナ 
陶芸とテキスタイルとガーデニングの学校です。

トンカチ 
いつから興味がありましたか?

マリナ 
はじめは17、18歳の時イラストレーションを勉強していて、それから2次元が悲しくなってしまって……。持てるものが作りたくなってきて、そういう作品を作っていたら、先生が「これはイラストじゃないです」といったので、「ああそうか」と思いながら、ちょっと休憩しようかなと思って。

トンカチ 
作りたいものが違ってきたのですね。

マリナ 
はい。友達がたまたまスウェーデンにある学校に1日だけちょっと体験で来ていたんです。「こういう学校があるからいってみたら?」と教えてくれて、受かったら行ってみよう、受からなかったらイラストに戻ろうと思った。

トンカチ 
じゃあ、友達の推薦がなかったら、そのままイラストの道に進んでいたかもしれないわけですね。

マリナ 
かもしれないです。

トンカチ 
最初、イラストに興味をもったのはなぜですか?

マリナ 
おばあちゃんが絵がすごい上手でした。子供のころからあまりしゃべることが好きではなかったし絵が好きでした。

トンカチ 
おとなしい子だった?

マリナ 
そうですね。いろいろなイラストレータを知って、すごくおもしろそう!と思いました。でも陶芸を始めてから、イラストの頃の私が思い出せないぐらい違う人なりました。

トンカチ 
その時からはもうアメリカには帰っていない?

マリナ 
一度2週間ぐらい帰ったきりで、両親はアメリカにいます。

トンカチ 
スウェーデンに住むと何を思いますか?

マリナ 
すぐ暗くなるのが残念です。

トンカチ 
そこはスウェーデンとカリフォルニアとは違いますね。

マリナ 
違います。でも、逆に休める時間をもらえると思えるのはいいですね。あと、カリフォルニアはいつも明るいわけではないけれど、時間が同じ感じで進むから、少し考え方を変えようとかあまり思わなかった。けれど、スウェーデンでは今はこういう時期だからこういう考え方にスイッチしようと思うようになりました。

トンカチ 
日本人モードにはスウェーデンにいてもなりますか?

マリナ 
うーん。すごく難しい。なんだろう。日本語をしゃべるとき、最初にいつも私は「日本語がしゃべれますけど、アメリカで育ってきたので、すごくおかしい日本語ですよ。」と断ってから日本語をしゃべることで、ハードルを下げて、相手を傷つけない様にしておいて、楽しい感じで日本語を話している気分です。

トンカチ 
日本語全然変じゃないですよ。もっと変な日本人いっぱいますよ。佐々木(トンカチのデザイナー)の話より全然わかりやすいですよ。夢を見るときはどっちでみますか?

マリナ 
うーん。あまりしゃべらないかもしれない。夢の中で。

トンカチ 
しゃべらないって、どんな夢ですか?

マリナ 
物事が起きている夢です。何かが起こった、誰かがこうしてああしてと命令しているのは意識しているけど、言葉が残っていない。

トンカチ 
意識はできるけど、言語として残らない夢。

マリナ 
夢はあまり見ないかもです。

マリアンヌのこと

トンカチ 
マリアンヌさんとなぜ働くことになったのですか?

マリナ 
私がヨーテボリに引っ越した時、陶芸をやっている人の下で働いてみたいなと思ったときに、たまたま先生から紹介してもらいました。

トンカチ 
初対面の印象は?

マリナ 
落ち着いてる人。最初は作品しか見ていなかったので、若い人だと思っていました。

トンカチ 
マリアンヌさんが落ち着いている(笑)

マリナ 
最初の印象は(笑)。すごく若い人のアイデアに興味をもってくれる大人の人だなと思いました。

トンカチ 
何かエピソードはありますか?

マリナ 
初めて働いたときは「ヴァーチャルリアリティとかでアートできないかなー」と言ってました。「ロボットとかほしい」とも言ってました。

トンカチ 
そういう感じなんですね。

マリナ 
あと、質問が多いかもです。

トンカチ どんなことを質問されますか?

マリナ 
すごく暗いときがあります、死ぬときの話とか。病気のこととか、死ぬ準備の話とか、死後の世界とか。そういう話もありますが、次の日はこないだ宇宙人にさらわれて、帰ってきたときにはフカフカのパンツをはいていたとか。

一同 
笑。

トンカチ 
それで何と答えましたか?

マリナ 
へーって。そんな話はしょっちゅうだから、いちいちびっくりしてたら大変なので(笑)。

3つの国

トンカチ 
スウェーデンの人とカリフォルニアの人は違いますよね。

マリナ 
違います。スウェーデンの人たちは日本人ぽいところがある。アメリカ人はもし反対の人が1人2人いたら、私これ全然そうは思わないと普通にいうけど、スウェーデン人はそういうのがないと思った。話し合いを避けようとする的な考え、けんかにならないように。

トンカチ 
直接あまり衝突しないようにするという考えですね。

マリナ 
私はアメリカではおとなしいほうで、そんなに反対とかしないほうです。スウェーデンにきたらそういう人になってしまった。

トンカチ 
スウェーデンにきたら、アメリカ人としてスウェーデンの人には受け入れるのですか?

マリナ 
どうなんだろう。日本人ぽいと思われている。仲の良い人、友達もどう思ってるかわからない。どうなんだろうと思ってます。

トンカチ 
日本にきたら、文字は映像で見て、外国人の目で見てて、日本に住んだことがなくて、日本という国の一員になったことはない。あなたにとっての日本はお父さんとお母さんのいる家と、あとから知った日本文化ということですね。その中に日本が凝縮されてますね。

マリナ 
そうですね。

トンカチ 
あなたの日本はおじいちゃん、おばあちゃん含めて5,6人の日本ということになるのかな。それはノアの箱笛より小さいくて、一つのボートみたいな日本ですね。ミニチュアの日本。

マリナ 
そう。だからドラマとか、いろいろラブコメディだけではなく、ドキュメンタリーとかアクションとか、警察ものとか観るのはすごく楽しい。

トンカチ 
自然にそうなったのが面白いですね。あなたのつくってる陶芸に日本の感じというものはあるじゃないですか、それは最初からあったのですか?

マリナ 
考えていないけど、そうなった。技術もそこまで全部できるわけではないので、全然まだまだ浅い。陶芸に関しては、まだ自分を探しているから。アメリカを意識したり、スウェーデンを意識したり、実験してます。

ふたたびマリアンヌのこと

トンカチ 
私の思うマリアンヌさんって、ポジティブでもない。ネガティブでもない。何でもない。

マリナ 
暗いときに話すと、ああーああーああーため息をついている。

トンカチ 
最近はよく一緒にいるわけですよね?

マリナ 
そうですね、私も最近思ったのは、マリアンヌは作品に言葉がある、フラワーパワーとか。最近きづいたのは、これは自分のための言葉なのかなと。時々暗いときがあるから、自分が忘れたくないこと書いてるのかなと思いました。

トンカチ 
宣伝文句やコピーを書いてるわけではない。自分にとって必要なことを書いている。作品の作り方もそうですね。あまり同じ注文で同じものを作っているとすぐ疲れちゃう(笑)。

マリナ 
そうです。私がそれを作ってる(笑)。

トンカチ 
自分に必要なものを作るだけだと、他人が関われるビジネスにはならないから、そのバランスが難しいですよね。我々みたいな他人が関わると、少し規模が大きくなる。ビジネスとしてやっていくとなると、他人が必要とするものを作らないといけなくなってくる。

バットマンを作って、みんながバットマン2を観たいなら作らなければならない。でも3を作って4を作ってとなると、その人はどんどんバットマンだけを作る人になるから、そうするとマリアンヌのやりたいことではなくなるから、どこかで自分たちみたいなビジネスとして関わる側もそこを調整しなければならない。そこが自分たちにとっては実験であり挑戦になっている。

マリアンヌのやりたいこと、マリアンヌが必要とするものをつくっていく、そこを維持したまま、あまり失わないまま、それをバットマン2がほしい人にも届けていくことはできないか。そこを考えていけば、あまりみんながやっていないような仕事のやり方を発見できるかもしれない。

私が思うにマリアンヌさんは、お金のために何かをたくさんしなきゃいけないってのは好きじゃない。でもビジネスを継続すれば、お金としては増えていく方向に必ず進んでいき、それを減らす方向には進まない。そうなるとビジネスではなくなってしまうから。それのちょうどいい場所を探すのって難しいですけど、我々がやるべきことだと思ってます。

マリナ 
すごい大変だなと思います。マリアンヌは作家さんであって、マネージャーであって、いろんなことが全部あるから、時々気分もダウンするだろうし、みんなそうかもしれないけど、難しいですね。生きていかないといけないし。

トンカチ 
表現者だけでなく、普通に生きている我々にも、ウツの時期はみんなに必要だと思う。ウツの時期が適正にあるっているのが本物のウツにならない条件だと思うんです。今日はいろいろお話してくれてありがとうございました。さあ、焼き鳥屋に行きましょう!

マリナ 
笑。

インタビューを終えて

彼女の話の中には、グローバルという事、日本人という事、表現者ということ、などなど色々な要素が入っている。人はどうやって日本人になるのか?ということがこの中にあって、そこに私は前のめりになった。私たちは当然にように自分は日本人であると思ってきたが、果たしてそれはそうなのか?それはそれほど自明なことではないのではないか?と彼女の話を聞いてますます思った。そしてそれは、人はどうやってアーチストになるのか?ということとも繋がるのかもしれない。

アーチストのすぐ傍にいる人の話というのは、常に興味深い。私たちには決して見えない顔がそこにある。見えない顔から言葉を取り出すには、当然のように、それには長い時間が必要なのだ。

インタビューをまとめてみて、よっしゃー、私たちはこれからもドメスティックに頑張るぞ!という気になった。

Marianne hallberg