『Goldie the Dollmaker / 人形づくりのゴ―ルディー』について、デザインと企画のS、突撃新人のM、通りすがりのOという3人で話した。

 

O:Sさんは『Goldie the Dollmaker / 人形づくりのゴ―ルディー』といつ出会ったの。


S:
私は『おとなりさん』を青山ブックセンターで見かけてゴフスタインを好きになって、それは多分24歳位の頃で、パレットクラブ(築地にあるグラフィックの学校)に行ってる頃。『おとなりさん』を友だちにあげたりしてた。その頃(1999年あたり)はネットの情報って今ほどなくて、みんな本屋によく行ってて、いろんなものにそこで出会ってたんだよね。

※おとなりさん / Neighbors:1989年のゴフスタインの絵本。1989年に日本語訳が刊行(現在絶版)。トンカチでは新訳によるリマスター版を刊行予定です。
※青山ブックセンター:青山に本店があったアート・デザインに強い大型書店。あの頃みんな大好きだった。
※パレットクラブ:1997年に設立した築地にあるイラストスクール。Sはできたばかりの頃の生徒だった。


M:
へ~、そーなんだぁ~。

※この人は新卒さんのネット世代なのでリアル本屋に皆が行きまくってたことを知らないんです。
※ちなみにMは今、パレットクラブに行ってるそう。



S:
ゴールディーの人形もそこで買ったんだけど、本を買ったのは同じ時じゃないなあ。ゴールディーは、銀座のナルニヤ国(老舗の児童書本屋さん)で買った。

※Sは何をどこで買ったという事をよ~く覚えていたりする。
※ゴールディーの日本語版が出たのは2005年なので、Sは先にぬいぐるみに出会っているっぽい。
※ゴールディーの人形:この人形はSさんからずーっと事あるごとに見せられていた(トンカチ社長K談話)。なので今回のBOXセットで当然のように復刻することになった。


O:
で、当時の読んだ感想は?


S:
あっ、この人の新しい本出てたんだぁ~!ってなって、とにかく絵が好きなんです。で、すぐ買って、最初は絵だけ見てたんだけど、ある時ちゃんと読んだら、すっごく内容が心に入ってきて。多分それがゴフスタインさんに手紙を書いた頃(2005年頃)だったはず。

※ゴールディーの原書は1969年刊行ですが日本語版が出たのは2005年です。
※Sがゴフスタインさんに手紙を書いたのがめぐりめぐって今トンカチで本を出している。


O:
どう感じたの?


S:
その頃、私は仕事がすっごく忙しい時で、いろいろ凹むことなんかも一通り経験してた時で、だからか、この本に書かれている内容は全て仕事のこと、モノづくりのことに当てはまると思ったんですね。大げさに言うと自分が言葉にできなかった生き方そのものが書かれている気がして。あと、やっぱり、ゴールディーという主人公に感情移入したんです。私と一緒だ、って思ったんです。

※この頃のSはパワーショベルというカメラを作る会社にいて、カメラや本や音楽やいろいろ作って目が回っていた。


O:
どのへんが一緒だったの?


S:
全部ですよ。主人公が仕事の中に小さなこだわりがあるとことか、思いきって意味がないかもしれない高価なものを勢いで買っちゃうとか、なのに買ったものが人に褒められないと落ち込むとか、製作途中の人形とずっと一緒にいるとか、オームスに「君って芸術家だね」って言われた、あのショックな感じだとか。自分の作ったものを持っている子供に自分が作者だって言えないところとか、私も同じ経験がある。最後の、大丈夫だよって言ってくれる妖精のオチにしても、私が求めてること、言って欲しいことがそこに全部あったんですよ。  


O:
Mさんは若者代表なんだけど知ってた?


M:
私はブルッキーの本を持ってて、『ねむたいひとたち』とかも知ってました。けど、この本はトンカチの仕事で知って、英語版を出す話だったから最初は英語版で出会ったんです。その時、仕事がスタートする際にこの3人で話す機会があって、OさんがSさんに「この本のどこが好きなのか教えてやって」って言ったら、教えてくれなかったんです!


O:
え~っ!


S:
あっ、私そうだったかも、意地悪だったかも。笑


M:
フフン、って感じではぐらかされて。だからすっごい大事にしてるんだなぁ、と思って。笑


O:まだ、仲間だと認められてなかったんだね。笑


S:これ、ゴフの中で一番好きな本なんですね。なのになんで来たばっかりの人にやらせるのって思って!


O:でもね、こーいう仕事は、思い入れがある人、ない人、付き合いが長い人、短い人とか、いろんな人が混じったほうがいいのよ。そうでないと了解された中でやることになるでしょ。でさ、この本って実はそーいうこと言ってる本でしょ?


一同:ふんふん


O:Mさんは初めて読んでどうだった?


M:何も教えてもらえなかった私は(笑)、それからSさんとゴールディーを重ねるように読んでいったんです。自分は思い入れがなかったから、やばい!ってなって、どーしようってなって、何かやらなきゃ~て思って。その時、別冊を作る話が出てて、本に出てくる小道具がかわいいから、それを切り出してきて並べたらかわいいって話をしたら、それがいいねって採用されたんです。


O:そうだったわ。最初はその前に出してた英語版の「ブルッキーと私の子羊」と同じように、日本語で英文解説をつけようと思ってたんだよね。だけどこっちが面白いやって路線変更したんだった。思い入れがないからこそ、焦って生まれた解決策だよね。すばらしい。


S:そうだったね。Mさん察知能力あるわ~。笑


O:そこで、思い入れあるベテランのSさんと、思い入れがない新人のMさんが、一緒に仕事をすることになるんだけど、まあ仕事って、現実世界ってそーいうことばかりで、この本でもそこがたくさん出てきてるよね。例えば、ゴールディーは両親より自分のほうが人形作りに対して思い入れがあると思っているし、製材されていない木に思い入れがあるけど、大工のオームスにはそれがない。中国のランプだってそう。すごくそーいう皆の勝手な精神が絡まり合ってる話だよね。


一同:ふんふん


O:実は私もちゃんと読んだのは最近なんです。Sさんにず~と勧められてて挑戦はしたんですけど、何故か読めずで(そんな本っていっぱいあるんです)、今回英語版を出版するとなって初めてちゃんと読んだ。で、この本は勝手な人ばっかり出てくるんですが、人間というのは勝手なこと考えて勝手に生きてるってことが、この本の言いたいことの1つだと思うんです。


一同:ふんふん


O:ゴールディーは大工のオームスが勝手に好きなんですけど、作者はオームスをすごく俗人として描いていますよね。どうしてそうするのかなあと思ってたんだけど、きっと作者は色んな目にあってたんだと思うんです。だからここはちょっと無理解な人に対してはチクッとやってる。登場人物は全部モデルがいそうなくらいリアルで。ゴールディーには作者本人の経験がもろに投影されているように思う。


一同:ふんふん


O:Mさんとしては課題図書としてどう読んだの?


M:私は、人はみんな場合によってはオームスの立場になるから、皆がゴールディーになりたくてもオームスにもなるって思ったんです。


O:この本は何を伝えたいんだと思った?


M:ものづくりの本とは思った。自分の中のこだわりとか、好きという気持ちとか、執着についての本というようにも思いました。


O:この本には、心が清潔であれ、っていう前提があるよね。例えば、ゴールディーはこころ清らかに人形を作っていて、そのこだわりとか、清潔な心と生活の規律を感じさせるよね。


一同:ふんふん


O:だからゴールディーとして生きるっていうのも大変なことだよね。ゴールディーは最初からある種のステージにいる人で、皆からゴールディーちゃん変わってるわ、って人だよね。一定の成功をしながら、仕事を誠実にしている。今のモノづくりが好きな子たちからしても、憧れの生き方だよね。でも、それが買い物1つで揺らぐ。そこはSさんはよーくわかるでしょ。笑


S:そうそう、わかる。例えばこの指輪(Sさんの指の8本には同じ作家の指輪がある!)にしても、おもちゃみたいなのに、値段も高い。私はその作った人へのリスペクトでモノを買うんです。それはすごく強い気持ちで買っているはずなのに、他人になんか言われるとすぐ揺らぐ。かっこいい男の子に言われても倒れるし、全く縁がない人に言われても揺らぐんです。グラグラなんですよね。


M:私は大きなものを買うようなお金も持ってないし。笑


O:旦那さんが言ってたクリスマスのエピソードあるよね。ゴフと旦那さんがレストランでクリスマスのディナーをしてて、その席でゴフが汚い人形を取り出して、夢見るようにうっとりしてたって話し。ここで何その汚いモノしまいなさいって言わないんだよね、旦那さんは。


一同:ふんふん


O:そーいう自分が好きなものをけなされるとかってどうですか。


M:言われる人によるかなあ。友達とかならいいんだけど、自分が尊敬している人とかに言われたらショックで、指輪とかだったらもうしないと思う。


S:私は誰に言われてもダメなんですよ。ガードが弱くて、もっと強くなりたい。


O:どの方角からきてもガードが高い人ってないよね。でも私は結構ガード高くて、例えば、私の横にかっこいい若者がいて女の子にモテてたら、男は俺くらいじいさんのほうがいいのになぁ、わかってないねえって思う。で、権力と金がある人がモテてたら、権力と金がないほうが素敵なのにわかってないなぁって思い、貧乏な人がモテてれば、貧乏はだめなんだよなあ~って思うんです。


一同:都合がいい~。笑


O:そう、都合がいいのよ。あと、自分が尊敬する人に自分のやったことがわかってくれない場合も、単にその話題を引き上げるだけなのよ。あっそう、ではこれやめましょうって、話をやめちゃう。わかってくれなかったもその人に対する気持ちも変わらない。あっそう、だったら話題にしてもつまらないからやめましょうってなるだけなんです。そーいう考えなんです。


一同:都合がいい~。笑


O:そう考えると、ゴフの本には勝手な登場人物がいっぱい出てくるよね。


S:そう。でもブルッキーなんかだと、信頼が前提にある勝手ですね。あの本は旦那さんに捧げたってことを知って読むと違うんだよね。気持ちが通じなくても通じないことにがっかりしないで変えていく。だから前向きな本。

※ブルッキーはBrookie and Her Lamb のこと。

 

O:ある意味で、最高の子育て本になってるよね。ゴフは一作一作全力投球だから、ブルッキーを描いた後に同じ様な話はやらない。評価を得たブルッキーの路線はあえてやらないで、信頼を前提としない話しを描いちゃう。


S:ほんと、一作一作にその時の自分を全力で入れ込むんだよね。


O:作品が描かれた年代順に見てみるとそれがよくわかる。


M:では、ここでCMです。

ゴフスタインのデビュー作はトンカチから出版されてます。
その他、こんな感じです。【 】内はオリジナルの出版年です。


【1966】The Gats / あの子たち!
  ※[通常版][BOXセット]
【1966】Sleepy People / ねむたいひとたち
  ※トンカチから2023年に英語版とBOXセットが出版予定です!
【1967】Brookie and Her Lamb / ブルッキーと彼女の子羊[英語版]
  ※[BOXセット]
【1968】Across the Sea / 海のむこうで
  ※[通常版][BOXセット]
【1969】Goldie the Dollmaker / 人形づくりのゴールディー[英語版]
  ※[通常版][BOXセット]


気がつくとトンカチでは1966年のデビュー作から1969年まで60年代に発表された作品の全てを出版(一部出版予定)しています。70年代の作品としては【1979】『Natural History / ほんとうの私たち』があります。


そしてジャジャジャーン!ここだけの耳より情報です!今後は、下記の作品が出版予定です(秘密にしてね)。


【1972】A Little Schbert
【1974】Me and My Captain
【1976】Fish for Supper
【1976】My Crazy Sister
【1979】Neighbors


その他も色々考えて出版していきますので、どうぞご期待ください。
以上。CM終わります。


S:CMご苦労さま。


O:ところで、どの場面が1番好きですか?


S:難しいんだけど、その都度変わっていくんだけど、今ならやっぱり、あのオームスの家から打ちひしがれて森を歩いているトボトボ感かなあ。ほんとうにがっかりしてて。


O:会ったこともない人のために自分に出来ることをやりましょう、というこの結末についてはどうですか?例えば人は会ったこともない人のために勉強するとかテストでいい点とるとかはしないですよね。


M:え~、どーかなあ~。私は会った人のない人ために、を意識したことはないけど、振り返ると結果的にその時は会ってなかったこの人に会うためにやってたのかな、ここに流れ着いたんだなって思うことはあるかも。


O:Sさんはそ~いう考えからは大きく離れてるでしょ。笑


S:そうだね~。私は会社に入ってからは具体的にOさんがどう思うかとか、リサ(※リサ・ラーソン)がどう思うかとか、特定の誰かを想定してやってたからね。私はそーいう人だから。


O:有名な写真家のMさんは、仕事というもの誰か1人のためにやるもんだと言ってて、若い頃は憧れの編集者を想定してた。だれかを想定すると具体的になって迷わないって利点がある。もし、その想定してた人が死んだって、その人を想定し続けることはできるし、どっちがいいって話ではないと思うんだけどね。ただ、特定の人を離れて「会ったこともない誰かのために」っていうところにいくのはある種の境地ではあるよね。写真家のMさんだって、きっと今はその境地なわけでさ。


一同:ふんふん


O:誰を想定することと1つ違うのは、会ったこともない相手っていうのは、少なくとも実力や権力がある誰かとか、ものをわかっている誰かではないんだよね。そうではない何かなんだよね。ゴフスタインはそこを想定することによって、何かを超えたんだと思う。


一同:ふんふん


O:あと、ゴールディーが自分の人形を持ってる子に名乗れなかったという話だけれど、あれは作者として自分が名乗らないのは謙虚でありながらも、一面では偏狭でもあるよね。悪く言うとそれは責任を取りたくないってことで、政治家なら違うでしょう。政治家なら子供の手を取って、ありがとう。これは私が一生懸命作った人形なんだよ。気に入ってくれてうれしい。私は君たち子供のために政治を頑張るので応援してね。って言うよね。


一同:


S:ゴフは本がずっと好きで、本を作っている人は雲の上というか、人間とは思ってなかった。って言ってたから、私が作ってるなんて名乗れない、そんなことしたら幻滅させちゃうって思ったのかな。


O:あとはやっぱり影でいたい人で、日向の政治家とは違うってことだよね、当然だけどさ。でも、私はこの物語の結末のあとなら、ゴールディーはたまには、それ私が作ったのよって言うかもしれないって思うんだよね。その時の気分によって言えるんじゃないかって思うんだよ。その空想は私の思う希望の光なんだよね。この本には、皆がそれぞれ、物語のその後を想像したくなるようなところがあるよね。


一同:ふんふん


O:最後に、今回のBOXセットの押しどころは?


M:木彫りの人形です。私はここ(トンカチ)に来てはじめて見せてもらって、何に使うかも知らないけれど、わぁ~カワイイって思って。


S:私は箱かなあ。やっぱりこーいう箱に何かが詰まってるってわくわくする。


O:うちらは何でもやりはじめてから困っちゃうけどやる、ってのが多いんだけど、このBOXも必死で続けてるんですよね。


S:うん。続けていきたい。ビートルズとか音楽の世界ではBOXセットってたくさんあるけど、絵本作家でこれだけBOXセットが出ている人を私は知らないから。これはやるべきことだと思うんですよね。


一同:ふんふん

M.b.goffsteinTonkachi books