インニ・マ(イニ・セラミック主催)インタビュー
パリ在住の韓国人セラミックアーチストでありイニ・セラミックを主催するインニ・マにインタビューした。英語、フランス語、日本語が飛び交うインタビューとなった。
あなたの作品はあらゆる意味でバランスの作品という感じがします。
それは私がとっても大切にしていることです。機能としての花瓶とオブジェとしての花瓶、そのちょうどいいバランスを常に探しているし、アジアとヨーロッパについてもそう。両方のバランスに注意してミックスしようとしています。
あなたはずっとバランスを重視してきたのでしょうか。
バランスは自然に生じるものだと思うの。
子供のときはバランス取ることが上手でしたか。
どうかしら、私は極端な子供だったから。(笑)
空想の世界に生きる夢見る子供でしたか。
ちがうわ。
普通にみんなと仲良くやっていけた。
そう。小さい頃はたくさん友達がいたの。
それがどこかのタイミングで、私はみんなと違うと判明して、バランスについて考えるターニングポイントが訪れる。
(通訳のマシューさんが「あー私も聞いたことない話だなあ」)いい質問ですね。(しばらく考えて)私は人より強かったから。私はアーティストになりたいという想いが強すぎて、韓国や友達が好きという気持ちを越えちゃったの。
バランスが崩れますね。
いえ、バランスが崩れたわけではなく、意図的にそれを選んだの。
失ったのではなく、選択したと。
そうです。
何歳でその選択をしたのでしょう。
17歳の時です。そして18歳でフランスにきました。
フランスにきて疎外感を感じたり、孤独を感じたりしましたか。
ええ、最初は難しかった。特に言葉、フランス語が難しくて。
フランスでフランス語しゃべれないのは厳しいでしょう。少しは話せたのですか。
超基本的なことだけ。アルファベットと自分の名前はインニです、くらいだった。
言葉が話せなくても大丈夫と思ったわけですね、心が強いから。
その時は、私はできるんだって、強く信じたの。
それは一刻も早く韓国を出てフランスへ行きたかったからですね。
そう。何の疑いもなくすぐ行きたかった。
18歳の少女に何がそうさせたのでしょう。韓国の中でアートをやることもできたのに。
好奇心とエキサイティングなことを求める気持ち。アーティストになりたいと思っているのに、韓国で時間を費やす暇があったらすぐフランスへ行くべきと思ったの。学校を決める時が決定的だった。韓国で学校へ行き始めたら4年間はそこにいることになるから。
どうやってセラミックに出会ったのでしょう。
大学はセラミック専攻ではなかったけれど、ずっとやりたいと思っていました。けれどファインアートの学校ではそんな機会がなくてドローイングやペインティング、インスタレーションをやっていました。パリにいたときには友人と工房をシェアしていて、2人の友人がセラミックをやっていて、窯も粘土もあったので、私もそれを借りてやってみたのが最初です。
始めてすぐにピンときましたか。
はい。すぐに大好きになりました。
陶芸のどんなところに惹かれたのでしょう。
すぐに形にすることができるとこです。思いついたアイデアがすぐに製品になります。
そのスピードが何物にも代えがたい魅力だと?
スピードと手軽さ。特別な準備が必要なく、粘土さえあればすぐに始められること。そして焼きさえすればすぐに使えるところが好きです。
あなたにとって陶芸は何に似てますか?
吹きガラスに興味があるのですが、それに似てるかもしれない。
あなたの性格と陶芸は関係していると思いますか?
たぶん(笑い)
どんなところが。
私の性格は粘土みたい。状況に応じてすぐに形を変えることができます。
どうやって作りますか。
最初、アイデアを忘れないようにすぐに書き留めます。そしてすぐに作り始めます。すぐに作りたいんです。
何からインスピレーションを受けますか。現実的な問題から影響を受けたりしますか。
ファインアートの場合は現実的な問題からもインスピレーションを受けますが、セラミックを作る場合はそこから影響を受けることはありません。
それはセンサーが違うのでしょうか。
セラミックはデコレーションです。見ためが重要です。素敵な日常を作るために、生活に光を取り入れることが目的です。アートはメッセージを伝えるものだから、私にとっては2つは異なります。
あなたはアートで強いメッセージを伝えることより、セラミックで日常の中に光のイメージを取り込むことのほうが好きなのですね。
今はそうです。私にとってはデコレーションそのものが、メッセージです。
デコレーションの楽しみとはどこにありますか。
花を摘んで室内に持ってくることは良いエネルギーを外から内に持ってくることです。花瓶は花と植物と自分自身をリンクするもので、それは自然と室内への橋となります。
自然と人の気持ちの間に入ることが楽しいということ。
そう。
最初に自分がファインアートを志した17歳の時は、そうは考えなかったでしょう。
そうですね。でも、今の方がもっと楽しい。
17歳の時のあなたは楽しさをしらなかった。
そうね。(笑)
それはフランスが与えた影響ですか。
フランスは好きですが、それが原因かどうかはわからない。けどフランスに来て心のままに素直になれたというのはあります。
それはひとりぼっちになれたから。
私は知ってるもの全てから出ていきたいと思っていたから。開放されたかった。最初は辛い時期もあったけど、その間も自由を感じていたの。
土を触りはじめてから、さらに考えが変わっていった。
アートでは様々なタブーがあって閉じているように感じたけれど、陶芸は自由だった。お客さんに直接すぐに見せられるのも良かった。ファインアートではオーディエンスと直接つながれず、まず先生やギャラリーが介在しましたから。
あなたはどういう状況が苦手で、どんな状況が好きですか。
コントロールされる状況にいることが嫌い。
学校が嫌いですね。
そうね。
好きな状況は、山の中でハイキングしている時です。
ここから先は一問一答でお願いします。
Q:猫と犬
う~ん、両方好き~。それでもいい?
Q:いいでしょう。朝と夜
夜
Q:月と太陽
(すこし考えてから)太陽
Q:星と月
星
Q:海と山
山
Q:都会と田舎
両方好き
Q:ネオンと蝋燭
蝋燭
Q:蝋燭と月明かり
(少し考えてから)月明かり
Q:水と火
水
Q:霧と煙
霧
Q:雪と雨
雨
Q:暑さと寒さ
(なが~く考えてから)わかりません
Q:黒と白
(少し考えてから)黒
Q:赤と青
青
Q:コーヒーと紅茶
紅茶
Q:夢と空想
空想
Q:本と音楽
(少し考えてから)本
Q:絵本と映画
映画
Q:花瓶と花
(考えてから)花ね(笑)
Q:花と木
花
Q:土と水
いい質問だわ。土
Q:心と体
心
Q:子供と大人
子供
Q:木の実と葉っぱ
木の実
Q:リスとクマ
リス
Q:ライオンとトラ
トラ
Q:スポーツと散歩
散歩
Q:話すことと聞くこと
聞くこと
Q:歌と声
(すこし考えてから)歌
Q:右目と左目
右目(笑)
Q:左手と右手
右手(笑)
Q:考えることと考えないこと
難しすぎる~。考えないほうかな。
Q:手紙とハガキ
手紙
韓国にはよく帰りますか。
5年前に帰ったきりです。
あなたは移動する人ですか、一箇所に留まる人ですか。
動くほうが好きです。
それは作品にも感じられますね。では最後の質問です。幸せですか?
前より。
いつから幸せだと言えるようになりましたか。
セラミックを始めてからです。
幸せじゃないと答える時期はあったでしょうか。
あったと思う。
ではいつまでも幸せに。
ありがとう。