『私と私の船長さん』は、Diane Wolkstein(ダイアン・ウォルクスタイン)さんに捧げられている。
ゴフスタインの本の多くは、家族や知人に捧げられているので、この人について夫のデビットさんに聞いてみた。
デビットさんより
ダイアン・ウォルクスタインはブルックの大切な友人でした。ダイアンは民俗学者であり、語り部でもありました。世界中の民話集も出版しており、その多くはハイチの島国の物語です。
多くの点で、ダイアン・ウォルクスタインは、ブルックの本『マイ・クレイジー・シスター』の中でブルックの「クレイジーな妹」でした。
ダイアン・ウォルクスタインさんは亡くなられましたが、娘さんがブルックとダイアンの写真を送ってくださったので、添付しておきます。おそらく1970年代後半に撮影されたものだと思います。二人ともとても幸せそうに見えます。

いい写真だ。私はこんなに子どものように無邪気に笑っているゴフスタインを見たことがなかった。
ギターを抱えているのがダイアンさんで、こんな人だ。
Diane Wolkstein(1942–2013)
ブルック(M.B. ゴフスタイン)の親しい友人であり、民俗学者。アメリカで最も愛され、尊敬されるストーリーテラー(語り部)の一人である。
1967年から2012年にかけて、ニューヨークの公園などで物語を語り続けるとともに、23冊以上の民俗や伝説に関する書籍を執筆した。
代表作には、ハイチの民話集『The Magic Orange Tree and Other Haitian Folktales(邦題:魔法のオレンジの木 ー ハイチの民話)』(1978)や、シュメール神話『Inanna, Queen of Heaven and Earth(邦題:イナンナ 天界と他界の女王)』(1983)がある。
数えきれないほどの語り部たちを指導し、彼女が設立したプログラムは、アメリカで最も長い歴史を誇る無料の語りスストーリーテリング・プログラムとなった。
2007年、ニューヨーク市は6月22日を「ダイアン・ウォルクスタインの日」と定め、その功績を讃えた。
早速、翻訳されている彼女の本『魔法のオレンジの木 ー ハイチの民話』を取り寄せてみた。ダイアンさんは民族学者なので、未開に近いような場所に潜入してそこで生活する人々から口頭で物語を聞き取っている。いわゆる口承文学としての民話だが、ここでは、夢と現実を超越した世界が当たり前のように繰り広げられていながら、それらは日常から浮き立ってしまうことはないので、物語は決して死なない。それは何世代にも渡って人々を魅了しながら、原始的で根源的な物語の本質的なパワーを失うことなく再生し続けている。
この本に収録されているイマジネーションの塊のような話が、いつも会話に飛び出してきたら、これは絶対、ゴフスタインと話が合ったに違いない。いや、そういうレベルを超えて、話が止まらなかったに違いないのだ。ダイアンさんとゴフスタインは、お互い、違う入口から、こっちとあっちの架け橋になる幻想の物語の世界に潜入して、違う場所から同じ空を見上げて、今や同じ星が見えているのだ。
デビットさんによると、ダイアンさんは『マイ・クレイジー・シスター』のモデルであったと言っている。この物語は、突然帰ってきたクレイジーな妹のあまりに常識外の行動の数々、まさにクレイジーなエピソードの数々を姉の視点から語ったものだが、今思うと、これって民話そのものじゃないか。
それから察するに、ダイアンさんという人は、研究領域の幻想的な民話以上に、実生活においても、現実と幻想の区別なく、考え行動する人だったに違いない。
つまり彼女は『私と私の船長さん』の「私」だったのかもしれない。いや、まてよ。もしかしたら、長い航海に出ていく様に、未開の国へ旅立ったまま帰ってこないのはダイアンさんのほうなので、ダイアンさんが「船長さん」で、ゴフスタインさんが「私」だったのかもしれない。とすると、この物語の奥には、二人の関係性が投影されていて、それをさらに違う物語にしたのが『マイ・クレイジー・シスター』だったのかもしれない。ゴフスタインさんは、私の心をつかんだまま、未開の世界に旅立っていけるダイアンさんに、憧れていたのではないだろうか。むむむ。興味が尽きない。
トンカチMS
追伸
『マイ・クレイジー・シスター』は新訳・新装丁でトンカチから刊行予定です。乞うご期待!