『おさかなごはん』刊行に際し、ゴフスタインの夫であるデビッドさん(David Allenderさん)にお話をお伺いしました。下記はそれをまとめたものです。
ゴフスタインが愛した2つの場所
M. B. ゴフスタインには、生涯を通じて特に大切にしていた2つの場所があります。
1つ目は、ミネソタ州ミネトンカ湖畔にある幼少期に過ごした夏の別荘です。ブルック(ゴフスタインの愛称です)はそこで過ごした楽しい幼少期の記憶を鮮明に覚えています。風に揺れる古びた木々、黄色い電球の光、カビの匂い、網戸の付いたポーチで家族とトランプをする時間、自分のコミックを描きたいという夢、そして紙人形とその衣装を作る楽しさなどです。
ブルックは、長い夏の間ずっと、紙人形を作りました。それぞれに個性と物語を与え、初めておしゃれなキャラクターを生み出しました。
2つ目の場所は、バーモント州のベニントンカレッジでした。女子校だった当時、この学校はさまざまな分野を本格的に学べる場所で、ブルックはそこで文字や彫刻を学びました。彼女は桜やクルミの丸太から人形を掘り上げ、その一部は『人形と話す(Conversations of a Doll)』で見ることができます。私のお気に入りは、彼女が写真を撮っている姿がガラスに映っているカットです。
BOXセットで初めて公開される『人形と話す(Conversations of a Doll)』について
大学卒業後、モノクロの線画で6冊の絵本を出版したブルックは、物語を写真で表現したいと考えるようになりました。子供の頃と同じように、彼女は彫った人形やフリーマーケットで見つけた小物を配置して、子供の頃と同じように愛を込めて撮影しました。最初の試みは1973年の『人形と話す(Conversations of a Doll)』でした。結果は満足のいくものにならず作品は未完のまま、今まで出版されることはありませんでした。しかし今となっては、これらのすべてが、彼女の作品をより理解する助けになるかもしれません。
ブルックの本の多くは、人形と遊ぶ子供の声で書かれています。『ブルッキーと彼女の子羊(Brookie and Her Lamb)』も『おさかなごはん(Fish for Supper)』と同様にその傾向がありますが、特に『人形と話す(Conversations of a Doll)』では顕著です。この本を読むと、読者は自分が子供だった頃に、おもちゃに物語を語りかけた思い出が蘇るかもしれません。
写真はミネトンカ湖の隣人、リリアン・ヴィクラさんです。
ブルックは彼女にちなんで『人形と話す(Conversations of a Doll)』に出てくる木の人形に名前を付けました。
写真とゴフスタイン
1973年から1978年にかけての5年間、ブルックはすべての本の挿絵を写真で表現しようと試みました。しかし、最終的には絵を描くことに戻りました。その試みの一つである『Me and My Captain』(1974年)は、木の人形の夢を語っているという点で『人形と話す(Conversations of a Doll)』と似ています。いくつかの実験を経て、彼女は絵の方が物語をより効果的に伝えられると理解し、最終的には絵を選びました。(そのため、『Me and My Captain』の主要人物である船長は彫られることがありませんでした。)
もちろん、M. B. ゴフスタインの作品は多岐にわたります。1969 年にブルックは、以前の本とはまったく異なるトーンの『人形づくりのゴールディー(Goldie the Dollmaker)』を出版しました。この本は、彼女が自分自身という人間とアーチストとしての理想を外の世界に説明する方法でした。同様に野心的な作品には『ほんとうの私たち(Natural History)』、『画家(An Artist)』、『作家(A Writer)』などがあります。しかし、物とその想像上の人生に対する愛情は生涯消えることなく、晩年の作品『Artists' Helpers Enjoy the Evenings』(1987 年)、『An Actor』(1987 年)、『Our Prairie Home: A Picture Album』(1988 年)、『A House, A Home』(1989 年)にもその影響が見られます。また、2017年に亡くなるまで、物の写真を用いたコミック『Mario's Garage』を執筆中でした。
『おさかなごはん』の思い出
ミネトンカ湖の思い出の中で、『おさかなごはん(Fish for Supper)』はブルックにとって特別な意味を持つ作品です。なぜなら、湖で釣りをしていた祖母がモデルとなっているからです。ある日、私はブルックに尋ねました。「おばあちゃんはあの本に大喜びしたかい?」
彼女の応えは「いいえ!」でした。「私がおばあちゃんに本を渡すと、彼女は『私の帽子と小さな靴がのってるわ』と言ったの。彼女が言ったのは『私の小さな靴』だけなの。『なんてすごいこと、私が本になってるわ!』とは言わなかったわ。私たちの家族のプライドは計り知れないものなの。私はがっかりしなかったわ。これが私の家族なの。どういうわけか、それはとても健全なことだと思うの。」
ブルックは人を愛し、たくさんの友人に恵まれていました。しかし彼女は、人生における最大の喜びは、その人自身の発見と誠実さから生まれる創造性であると信じていました。彼女の作品は、最も偉大な創造的成果でさえも、それは1つの遊び心からはじまるのだ、と私たちに教えてくれます。
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