聞き耳を立てる!―信楽焼編―

「にっぽんのリサ猫」は
こうしてできる。

十一番、信楽 また旅のねこ〜山〜
十二番、信楽 また旅のねこ〜水〜

滋賀県甲賀市信楽町で、2匹の新しいリサ猫が生まれました。

土と火がつくる豊かな茶色の「また旅のねこ〜山〜」と、深い青色の「また旅のねこ〜水〜」。

どちらもトラ模様に、白い口元、足先、しっぽの先が印象的な猫です。
今回、この2匹を制作したのは、信楽で長く焼き物をつくり続けている窯元・陶仙民芸。大きな信楽焼の狸から、手のひらにのる小さな置物まで。良質な土と、職人たちが長年積み重ねてきた技術から、信楽ならではのリサ猫が生まれました。

土から、いろいろなものが生まれる

信楽焼の特徴について尋ねると、最初に挙げられたのは「土」でした。

信楽は良質な土に恵まれ、大きなものから小さなものまで、さまざまな焼き物をつくることができます。
陶仙民芸が日頃から大切にしているのは、手に取った人が楽しくなるようなものをつくること。高さ90センチほどの大きな狸をつくることもあれば、小さな置物をつくることもあります。形も大きさも異なる幅広いものづくりを支えているのが、粘りの強い信楽の土です。
信楽の土には、長石(ちょうせき)や珪石(けいせき)が含まれています。焼成すると、それらが表面に白い粒となってぽつぽつと現れ、焼き物に一つひとつ異なる表情を与えます。登り窯で焼いた焼き物には、美しい緋色の中から白い粒が顔を出す、素朴で力強い景色が生まれます。土そのものが持つ表情と、火による変化。その両方を味わえることが、信楽焼の大きな魅力です。

信楽に残る、いろいろな青

信楽焼と聞くと、土の色や茶色の狸の置物を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、信楽には美しい青色の焼き物もあります。
昭和の初めごろに数多くつくられた火鉢や花瓶には、瑠璃釉(るりゆう)や海鼠釉(なまこゆう)などの青い釉薬が使われていました。釉薬の調合は窯元ごとに異なり、深く濃い青、少し緑を含んだ青、明るく澄んだ青など、それぞれの窯元ならではの色が生み出されていたそうです。
近年、こうした信楽の青い釉薬の美しさがあらためて注目され、「信楽ブルー(Shigaraki blue)」と呼ばれるようになっています。リサ・ラーソンのジャパンシリーズのひとつ、信楽焼の「しんじるたぬき」にも、数年前、新色として「しんじるたぬき(信楽ブルー)」が加わりました。

今回の「また旅のねこ〜水〜」にも、その青の流れを受け継ぐ瑠璃釉が使われています。

釉薬の濃さや土の状態、窯の焚き方によって、青色の深さや釉薬の流れ方は少しずつ変わります。同じ瑠璃釉を使っていても、まったく同じ青にはなりません。その変化が一匹ずつに異なる表情を与えていることも、信楽焼らしさの一つです。

同じ猫なのに、違う猫

「同じリサ猫の型から、いろいろな窯元のリサ猫が生まれてくるなんて、なんて面白いんだろうと思いました」

陶仙民芸の担当者は、「にっぽんのリサ猫」プロジェクトの話を聞いたときのことを、そう振り返ります。
同じ原型をもとにしていても、土地が変われば土が変わり、釉薬が変わり、つくり手も変わります。
これからどんなリサ猫がそろっていくのか。そして、信楽でつくるリサ猫は、どんな猫になるのか。制作が始まる前から、とても楽しみにしていたそうです。
リサ・ラーソンの作品から感じたのは、生きているものに対する、あたたかな愛情でした。その愛情を大切にしながら、素朴な信楽焼のよさも残したい。同時に、これまでの信楽焼とは少し違う、新しい発見のあるリサ猫にしたい。その思いから、信楽のリサ猫づくりが始まりました。

信楽の猫らしさ

目の位置や角度、鼻や口元の線。ほんの少し違うだけで、リサ猫の表情は大きく変わります。原型の制作がなかなかうまくいかず、どこを直せばよいのかさえ、わからなくなってしまったこともありました。
そこで参考にしたのが、すでにデビューしていた各地のリサ猫たちです。
それぞれの猫を見ながら、リサ猫らしさとは何か。そして、そこに信楽の猫らしさをどのように加えるのかを、あらためて考えていきました。
難しかったのは、顔だけではありません。リサ猫は、小さくて細長い形をしています。この形と、信楽の粘りが強い泥しょうとの相性には、難しい部分がありました。
石膏型に泥しょう(※)を流し込み、余分な泥しょうを外へ出す「排泥」の工程では、泥しょうがうまく排出できず、形がゆがんでしまうことがあります。
泥しょうの状態は、その日のコンディションによっても変化します。そのため、現在も一体ずつ状態を確かめ、調整を重ねながら制作を続けています。

「今でも苦労しながらつくっています」

完成した姿からは見えにくい部分にも、毎回状態の異なる泥しょうと向き合う職人たちの、細かな判断が重ねられています。
※泥しょうとは、粘土に水を加えて液状にしたもの。石膏型に流し込み、焼き物の形をつくる際に使われます。

青い猫と、茶色い猫

青い「また旅のねこ〜水〜」に使われているのは、瑠璃釉。深く澄んだ青色と、光を受けたときに見せる豊かな表情が特徴です。

茶色い「また旅のねこ〜山〜」に使われているのは、伊羅保釉(いらぼゆう)。明るい飴色から深い焦げ茶色まで、土や焼成の条件によって幅広い色と質感が生まれます。
制作では、さまざまな色見本をつくりました。
明るい飴色から深い焦げ茶色まで、土や焼成の条件によって幅広い色と質感が生まれます。
制作では、さまざまな色見本をつくりました。
しかし、焼いてみると想像していたかわいさにならず、失敗も多かったといいます。それでも試作を繰り返すうちに、瑠璃釉の青と伊羅保釉の茶、それぞれがリサ猫の形に似合う色と表情へ、少しずつ近づいていきました。釉薬の濃さ、土、窯の焚き方によって生まれる変化が、リサ猫に一匹ずつ違う個性を与えています。

タビと、しっぽと、口の白

今回のリサ猫を特徴づけているのが、顔まわりや足先、しっぽの先に施された白い模様です。
制作を始めたときに思い描いたのは、「リサ猫をハチワレの猫にしたい!」ということでした。そこから、リサ猫の形に似合う白い模様を考えていきました。目やヒゲは、一匹ずつ手作業で線彫りを行い、薄いゴスで墨入れ。顔まわりや足先、しっぽの白い部分も、すべて手で描いています。線の角度や白い部分の形が少しずつ異なるため、同じようにつくっていても、一匹ずつ違う表情が生まれます。

なかでも、特にこだわったのが白い足先です。

「白タビは手間がかかるのですが、かわいくて白タビにしてしまいました」

足先の小さな白い部分も、一匹ずつ丁寧に描かれています。
手間が増えると分かっていても、かわいさを優先して残した白タビ。その言葉からも、手に取った人が楽しくなるものをつくりたいという、陶仙民芸のものづくりへの思いが伝わります。
町で出会う猫たちが、一見よく似ていても、それぞれ異なる性格や表情を持っているように、このリサ猫にも、手仕事だからこそ生まれる違いがあります。
口元や鼻筋、前足、後ろ足、しっぽの先。見る角度を変えながら、一匹ずつ異なる白い模様と表情を、「あなただけのリサ猫」との出会いとして楽しんでください。

がんばっておいで!

完成に近づいたリサ猫たちは、最後にたぬきと同じ窯に入ります。
信楽焼ならではの特徴かもしれません。

「いつも、狸やリサ猫たちを窯に入れるときはドキドキします」

釉薬は、熱い炎の中で大きく変化します。
どんな色になるのか。どんな表情が現れるのか。最後まで、すべてを思いどおりにすることはできません。
窯へ送り出すときは、「がんばっておいで!」という気持ちになるそうです。
そして窯出しの日は、いつもワクワクします。焼き上がったリサ猫を見て、思わず「かわいくできたよね〜」と、ひとりごとを言ってしまうこともあるといいます。

幅広い世代が支えるものづくり

陶仙民芸の工場では、20人の職人が働いています。
年齢は20歳から81歳まで。男女比は、ほぼ半々です。
高さ90センチほどになる大きな狸もつくるため、素地づくりは主に男性が担当しています。素地の仕上げや、目、文字、模様を描く筆の仕事は、主に女性が担当。施釉は男性を中心に、男女混合で行っています。
どの工程にも長年の経験が必要です。
商品の原型づくりから型取り、量産に使用する型の制作まで、すべての工程を工場内で行えることも陶仙民芸の強みです。
原型師は通常3人、ほかの業務と兼任する職人を合わせると5人が担当できます。それぞれ作風や得意分野が異なり、その多様さが幅広いものづくりにつながっています。

山に囲まれた工場で

工場があるのは、山に囲まれた自然豊かな場所。

仕事をしていると、キジの鳴き声が聞こえてくることもあります。そんなのんびりとした土地の空気が、信楽焼の狸や今回のリサ猫の、どこかほっとする表情にもつながっているのかもしれません。
制作を担当した方は、かつて陶仙民芸で「しんじるたぬき」を手がけた亡きご主人にも制作の際には相談して、完成したリサ猫を見せたかったと話します。

悩みながら原型をつくり、色見本を何度も焼き直して完成した、信楽のリサ猫。
そこには、陶仙民芸が長年培ってきた技術と、つくり手の思いが込められています。

あなただけのリサ猫

リサが生み出した形を大切にしながら、そこに信楽の土や釉薬、窯元独自の技術をどのように重ねるのか。普段とは違う作風の作品に向き合う難しさとともに、これまでにないものをつくる楽しさも感じたといいます。

瑠璃釉の青も、伊羅保釉の茶も、焼き上がりは一匹ずつ異なります。手描きの顔や白タビにも、同じものはありません。このリサ猫を通して伝えたいのは、土のあたたかみと、これまでとは少し違う、信楽焼の新しい魅力です。

また旅へ

琵琶湖の水を思わせる青をまとった「また旅のねこ〜水〜」。
山や土のあたたかな色をまとった「また旅のねこ〜山〜」。

一匹ずつ違う色と表情を持った猫たちが、信楽の窯から、それぞれの場所へ旅立ちます。
「あなただけのリサ猫」との出会いとして、長くかわいがってもらえますように。

Lisa larson